表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/19

第5章 『アイドルと警部部長と三つ目の影』

 ■1 家庭内“取り調べ室”


 翌朝。

 麗は食卓の椅子に座らされていた。


 正面には──腕を組んで仁王立ちの母、宵宮美羽(警視庁・警部部長)。


 眉間の皺が普段の三倍だ。


「麗。説明しなさい」


 その声は、完全に“警部部長の声”だった。


「え、あの……説明と言われましても……」


「影喰いのピエロに間違われて連行される大学生がどこにいるの!?

 あなたぐらいよ!」


「ち、違うんだってば! 私はただ、事件現場をちょっと覗いて──」


「“ちょっと覗く”って言い方がもう怪しいのよ!」


 机を叩く美羽。


 麗は思わず背筋を伸ばす。


「お母さん……落ち着いて。ほら、精神に悪いよ?」


「誰のせいでこうなってると思ってるの!」


 美羽の怒りのボルテージが上がったその時──


「まあまあ、美羽。少し落ち着きなさい」


 低く落ち着いた声が部屋に響いた。


 ■二 総監・宵宮大河の介入


 扉が開き、麗の叔父であり警視庁総監の 宵宮大河 が現れた。

 スーツをきっちりと着こなした姿は、ただ立っているだけで場の空気を支配する。


「兄さん! 麗がまた余計なことをして──!」


「余計なことと言うが……麗らしいじゃないか」


 麗は思わず胸を張る。


「ほら見て! 叔父さんもこう言ってるし──」


「褒めてはいないぞ、麗」


「……ですよね」


 大河は椅子を引き、麗の正面に座った。

 その眼差しは優しいが、芯が鋭い。


「麗、お前が事件に関わるのは危険だ。影喰いのピエロは、単なる愉快犯ではない。

 罪を暴き、ばら撒く……理解できるか?」


「……わかってるつもり。だけど、私は──」


「止めたいんだろう?」


 麗は息を呑んだ。


 頷くしかなかった。


「……うん」


 大河はふっと微笑む。


「その気持ちは否定しない。だが、お前が無謀なのも事実だ」


「む、無謀って……!」


「無謀じゃないの?」


 美羽が即答した。


 麗は言葉に詰まる。


「というわけで──“監視役をつける”」


 大河が言った。


「か、監視役……?」


 美羽が続ける。


「あなたがまた勝手に動くからよ。反省しなさい」


「え、ちょっと待って! 私、そんなに信用ないの!?」


「ないわね」


「皆で即答するのはやめて!」


 美羽と大河は微妙に視線を交わし、頷く。


 どうやら本気らしい。


 ■三 鮫島登場 〜最高の尾行 vs 最速で気づく麗〜


 翌日。


 麗が大学への道を歩いていると、背後からわずかな足音がついてきていた。


(……まただ)


 三歩歩けば、一定の距離で気配。

 角を曲がれば、影が揺れる。

 木の後ろに隠れているつもりなのか、葉が揺れている。


「……ねえ」


 麗は振り向き、木の後ろに向かって声を飛ばした。


「そこにいるの、鮫島さんでしょ」


 ビクリ、と木の影が震えた。


 がさ、と葉が揺れ──

 鮫島 刀真 が姿を現した。


「……なぜバレた」


「バレないと思ってたの?」


「俺は庁内でも尾行技術はトップクラスで……」


「木の陰から足、出てたよ」


「…………」


 鮫島は一瞬、空を見上げた。


「……総監……申し訳ない……」


「誰に向かって言ってるの!?」


 麗は呆れた。


 だが彼が真剣な目をしているのは分かる。


「俺は……あなたを守るよう総監と美羽部長に命じられた。

 影喰いのピエロは危険だ。君の安全は最優先だ」


 麗は表情を和らげた。


「……ありがとう。でも、隠れるならもっとちゃんと隠れてよね?」


「今後……努力する」


「努力の方向間違えてるよ!」


 つい突っ込みが出る。


 鮫島は少しだけ頬を赤くした。


 このやり取りを、遠くから誰かがじっと見ていることを、麗はまだ知らない。


 ■㈣ 朔弥の乱れ


 同じ頃。

 警視庁の休憩室。


 朔弥はロッカーに手をついたまま、息を整えようとしていた。


 ……頭の奥がざわつく。

 昨夜、ピエロを追った時から続く違和感。


「御影、顔色悪いけど」


 鮫島が声をかける。


「寝不足か?」


「……いや、なんでも」


「事件にのめり込みすぎるなよ。おまえ真面目だからさ」


 朔弥は応えず、水を飲んだ。


 その瞬間──

 耳の奥に、声が響く。


『朔弥くん。

 まだ“喰い足りない”だろう?』


(……まただ)


『ほら、見せてみな。

 君の影を。

 君の、罪を』


(黙れ……!!)


 ガンッ!

 朔弥はコップを落とした。


 鮫島が目を丸くする。


「おい!?」


 朔弥は震える指を握りしめた。


(黒澤……やめろ……)


 黒澤の声は朗らかで、しかし確実に朔弥の精神を削っていく。


 ■五 麗の推理っぽいもの


 昼休み、大学の図書室。


 麗はノートを広げた。


 事件1

 被害者:早坂瑠璃

 罪:過去の隠し暴力

 影ギミック:街灯3重

 犯行時刻:夜遅い

 紙のメモ:ピエロの署名


 事件2(今日の朝の発見)

 被害者:律野志保アナウンサー

 罪:内部告発の隠蔽

 影ギミック:同じく3重影

 紙のメモ:同じ筆跡


 麗はつぶやく。


「影は“場所の暗号”。

 罪は“暴露のための餌”。

 ピエロは“影を喰う”……」


 柚葉が隣でクッキーをかじっている。


「麗の推理モード出た。

 あ、眉にしわ寄ってるよ。父親そっくり」


「似てるって言わないで! 恥ずかしいんだから!」


 そのとき。

 またノート画面に匿名メールが届いた。


【影の三重は“入口”。

 本当の鍵は“笑わない道化”。】


「笑わない……道化……?」


(まさか……美音!?)


 麗は震えた。


(“笑ってるのに、笑ってない”あの子……

 ピエロと何か関係してる!?)


 そして──その推理は

 完全に“正しい方向”へ向かい始めていた。


 ■六 その夜:美音の告白(風)


 アイドル寮の一室。


 美音は鏡の前で髪をとかしていた。


 ……笑顔のまま、表情が固い。

 まるで顔の筋肉が動かない人形のよう。


 鏡の反射に、

 灰色のフードを被った影が映る。


「……また来たの?」


 影は何も言わない。


 美音は鏡越しに、淡々と話す。


「昨日……お兄ちゃんだったよね?」


 影がかすかに揺れる。


「でもお兄ちゃん、私に気づいてなかった……

 ひどいよね。

 ……でも、いいの。

 だって、私──」


 美音は鏡の前で笑みを深くした。


「お兄ちゃんのためなら、悪い道化師にもなれるよ」


 窓が開き、風が部屋を撫でる。


 美音のスカートが揺れ──

 その下で、彼女の影がふわりと“二重”になった。


(偽ピエロ……覚醒)


 ■七 黒澤、動く


 黒澤はホテルのスイートにいた。


 部屋は真っ暗。

 巨大なスクリーンには朔弥の顔が映っている。


「御影朔弥……

 君はもう“半分向こう側”に来ているよ」


 ワイングラスを揺らしながら笑う。


「麗ちゃんも……

 もうすぐ“気づく”だろうね。

 妹ちゃんのことも、朔弥のことも……全部」


 黒澤はスマホに一言つぶやいた。


「次は──“三つ目の影”だよ。

 君の舞台は、まだ始まったばかりだ」


 送信。


 その内容は、

 麗のスマホへ、匿名で届いた。


【“笑わない道化”を探せ。

 次の罪は、すぐ傍にある。】


 麗の背筋を寒気が走る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ