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第17章 「暴走する推理」――正しさが、牙を剥く

 では、続けます。


 ◆小説形式・本文【第16章】


「暴走する推理」――正しさが、牙を剥く


 ◆1 割れた仮面の意味


 シルキードロップのライブ会場は、すでに撤収作業に入っていた。

 ファンは帰され、ステージには冷たい白色灯だけが残る。


 麗は、控室の隅でビニール袋に入れられた仮面の破片を見つめていた。


「……やっぱり」


 小さく、しかし確信に満ちた声。


 柚葉が隣で腕を組む。

「“やっぱり”って……麗、もしかして」


「美音ちゃんは“偽物の影喰いのピエロ”」


 はっきりと言い切った。


 柚葉の表情が凍る。

「ちょ、ちょっと待って!? いきなり決めつけすぎじゃない!?」


「決めつけじゃない。推理」


 麗はノートを開き、乱暴な文字で書き殴る。


 仮面の破片


 兄を思わせる発言


 影ギミックの“雑さ”


 被害者選定に一貫性がない


 “守るため”という動機


「全部、つながる」


 柚葉は一歩引いた。

(……やばい。この目……)


 麗の瞳は、完全に事件の中に入っていた。


 ◆2 止める声、届かない


「麗」


 低い声がした。

 鮫島だった。


「今のはまだ仮説だ。

 美音は“被害者”の可能性もある」


「ない」


 即答だった。


「彼女は“選んでる”。

 自分に関わる人間を被害者にしない。

 これは――模倣犯じゃない。“自発的犯行”」


 鮫島の眉がわずかに動く。


「……言い切るな。

 それはお前の“感情”だ」


 その一言で、空気が凍った。


「……感情?」


 麗は笑った。

 でも、その笑みは冷たい。


「感情で推理できるなら、

 こんな簡単な事件、最初から解決してる」


 柚葉が慌てて割って入る。

「ちょ、ちょっと! 二人とも落ち着こ!?」


 だが麗は、すでに止まらない。


「私が追う。

 美音ちゃんを」


「麗!」


「逃がしたら、次は――

 “本物”と“偽物”が完全に混ざる」


 その言葉に、鮫島は言葉を失った。


(……危うい。

 正しすぎる推理は、時に人を壊す)


 ◆3 孤独な追跡


 深夜。

 都内某所、アイドル寮の近く。


 麗は一人、街灯の影に身を潜めていた。


「……出てきて」


 誰もいないはずの路地に向かって、低く言う。


「美音ちゃん。

 私、わかってる」


 返事はない。


 しかし――

 街灯の下、影が一瞬だけ歪んだ。


 麗の耳が、すっと遠くなる。


(来た)


「あなたは、

 “影喰いのピエロ”を守るために動いてる」


 足音が、ゆっくりと近づく。


「……どうして、そこまでして?」


 暗闇から、美音が現れた。

 白いパーカー、深く被ったフード。


「……麗さん」


 声は、震えていた。


「私……

 何もしてない」


「嘘」


 麗は一歩、前に出た。


「あなたは影を“使ってる”。

 罪を撒く場所を選んでる。

 それは――守るため」


 美音の唇が、きゅっと歪む。


「……守るって……

 誰を?」


「兄」


 その一言で、美音の呼吸が止まった。


 ◆4 暴走の瞬間


「……やめて」


 美音の声は、かすれていた。


「それ以上、言わないで……」


「言う」


 麗は引かなかった。


「あなたは知ってる。

 本物の影喰いのピエロ――

 御影朔弥が、あなたの兄だって」


 沈黙。


 数秒が、永遠のように伸びる。


「……違う」


 美音は首を振る。


「違う違う違う……

 私は……ただ……」


「ただ、守りたかった?」


 麗の声は鋭すぎた。


「でもそれは犯罪。

 あなたはもう、戻れないところまで――」


 パァン!


 突然、街灯が割れた。


 闇が落ちる。


「――っ!」


 麗は反射的に後ろへ跳んだ。


 闇の中、

 白い“能面”が浮かぶ。


 本物の影喰いのピエロ――朔弥。


『……麗』


 機械的な声。


『それ以上、妹を追うな』


 美音が息を呑む。

「……兄……?」


 その瞬間――

 麗の中で、何かが完全に振り切れた。


「――あんたが……

 全部の元凶!!」


 感情が、推理を上回る。


「私が止める!!

 今度こそ!!」


 朔弥は静かに首を傾げた。


『……君は、

 少し――似てきたな』


 闇が、深くなる。


 ◆5 父の影(予兆)


 その場に、もう一つの影が重なった。


「……そこまでだ、麗」


 低く、穏やかな声。


 闇の奥から現れたのは――

 宵宮拓哉だった。


 麗は、はっと我に返る。


「……お父……さん……?」


 拓哉は、娘をまっすぐ見つめる。


「今のお前は、

 “正しい推理”じゃない」


 静かな断言。


「“怒りで犯人を追う探偵”だ」


 麗の胸が、ぎゅっと締めつけられる。


 朔弥と美音は、闇に溶けるように姿を消した。


 残ったのは、

 震える麗と、

 それを支える父の背中だけだった。

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