第15章 影のひずみ――崩れはじめる心と、揺れる犯人像
◆1 緊急連絡
夜のキャンパスへ向かう途中、
麗はスマホを握りしめたまま走っていた。
父・拓哉からのメッセージにはただ一行――
《影喰いのピエロ、動いた》
それが示す意味はひとつしかない。
「……第五の事件……!」
呼吸が乱れる。
しかし胸の奥は、それ以上にざわついていた。
(美音ちゃん……“言えない”って……
あれは、何を隠していたの?)
考えるほど、答えはひとつへ収束していく。
◆2 現場の“違和感”
麗が現場の住宅街に辿り着くと、
すでに規制線が張られ、刑事たちが忙しく動いていた。
「麗……! こっちだ」
鮫島が駆け寄る。
その後ろで柚葉が手を振っていた。
「麗ー! 来たー!!」
「お前はなんでいつも元気なんだ……」
鮫島が呆れた顔をする。
緊張とコミカルが同居する空気の中、
麗は鮫島に連れられ、遺留物が集められた場所へ向かった。
「今回は……ちょっと妙だ」
「妙?」
「ああ。影喰いのピエロの置き土産――
“罪の影”が、いつもと違う」
麗が封筒の中を覗くと、写真が数枚。
被害者の過去の悪事が写っている。
しかし、ある点だけが“明確に違っていた”。
「……写真の質が悪い?」
「そうだ。手に入れた情報源が違う……
あるいは、“別の誰かが作った”可能性がある」
麗の心臓がドクン、と跳ねた。
(影武者……?
まさか、本当に……)
◆3 朔弥の視点――崩れていく“完璧”
一方その頃。
朔弥は、人気のない廃ビルの一室で、
自作の“影喰いピエロマスク”を机に置き、
深く息を吐いていた。
「……まただ」
机の上には、犯行現場の写真が並んでいる。
そこには、たしかに――
自分が行っていない事件の痕跡があった。
「俺は……やっていない。
なのに、“俺の手口”が残っている……」
背筋がざわりと震えた。
(これは……俺を真似している誰かがいる……?)
そしてもうひとつ、薄い恐怖が胸に浮かぶ。
(黒澤さん……まさか……
俺以外の“影喰いのピエロ”を作った……?)
その時だった。
机の端に置いてあった古い写真が、
一枚ひらりと落ちる。
それは、幼い自分と妹の写真。
妹の顔にモザイクのような光が差した。
「……ずっと探してるのに……
会えないな……美音……」
思い出の輪郭が、曖昧に揺れる。
(美音……
もし、生きていたら……
俺に会いたいと思うだろうか?)
その瞬間、胸にズンと痛みが走った。
朔弥は思わず胸元を押さえる。
「……おかしいな。
胸が……痛い……」
まるで、
“大切な人が泣いているのを察した”ように。
◆4 麗、核心に触れる
現場から少し離れた場所。
麗は一人、ノートに走り書きをしていた。
「犯行手口は似ている。でも……
写真の質、情報の精度、痕跡残しの甘さ……
これは明らかに“素人寄り”……」
(美音ちゃん……
あなた、もしかして……)
そこへ、柚葉が飲み物を片手に登場した。
「はい、麗~。ココア」
「あ、ありがとう……」
「で、どうよ? 事件は」
「うん……
影喰いのピエロは二人いる。
そのうち、ひとりは――」
「ひとりは……?」
麗は少し唇を噛んだ。
「この近くにいる。
私たちの……すぐそばに」
柚葉は息を呑んだ。
「まさか……美音ちゃん?」
「まだ断定はできないけど……
何かを隠してる。
しかも、本人は……苦しんでる」
麗の声が震えた。
(助けたい……
間違った道に行かないように……
美音ちゃんの心を……)
◆5 影武者の“サイン”
その時、鮫島が走ってきた。
「麗! これを見ろ!」
鮫島が手にしていたのは、
現場近くに落ちていた紙切れ。
そこには、歪んだ文字でこう書かれていた。
『守らなきゃ。
そのためなら、なんでもする。』
麗の顔が強張る。
(美音ちゃん……
あなた……どこまで行こうとしてるの……?)
◆6 朔弥、影武者を感じ取る
同じ頃。
朔弥は、廃ビルの窓辺から夜景を見下ろしていた。
微かな気配が、闇の中に漂う。
「……だれだ」
返事はない。
だが、気配は確かにあった。
(……俺のやり方を知ってる……
俺の“影”を真似する奴が……近くにいる……)
朔弥は気づいてしまった。
影喰いのピエロの“影武者”がいる。
──しかしそれが、美音だとはまだ知らない。
知らないまま、
彼の心は少しずつ、壊れていく。
◆7 次の事件の“予兆”
現場を後にする直前、
麗のスマホが震えた。
【匿名】
《次は……“白い灯り”の下だよ。
麗ちゃん》
「……っ、これは……!」
柚葉が覗き込む。
「え、なに? なに? 怖っ!」
鮫島は険しい顔をする。
「白い灯り……どういうことだ」
麗はすぐに悟った。
「次の影喰いのピエロの狙いは――
美音ちゃんの仕事現場……
“シルキードロップ新曲生配信ステージ”……!」
柚葉が叫んだ。
「美音ちゃんが危ないじゃん!!」
「ううん……違う。
美音ちゃんだけじゃない……」
麗の声が震える。
「影武者と本物が……
同じステージに立とうとしてる……!」




