第14章 影の告白――壊れかけた笑顔と、届かない声
◆1 約束の場所へ
夜風が冷たい。
街灯の明かりが、舗道に長い影を落としていた。
麗は息を整えながら、公園へ続く坂道を駆け上がる。
(なんで……美音ちゃん、あの日と同じ場所を選んだの?)
胸のざわめきは、ただの不安じゃない。
まるで“何かを暴かれる直前の静けさ”のようだった。
ふと後ろから声がする。
「麗――!!」
「うわぁ!? 柚葉?」
柚葉が息を切らして駆け寄ってきた。
「ちょっと……! 一人で夜に行くとか危ないでしょ!?
私も行くに決まってるじゃん!」
「いや、その……柚葉ちゃん、来ると……美音ちゃんが……」
「大丈夫大丈夫! 私、気配消すから!」
「いや、消せないよ……」
その後ろで、鮫島もこっそりついてきていた。
「……あの二人、毎回なんで尾行がバレバレなんだ」
ため息をつきながらも、麗の護衛として同行していた。
◆2 美音の“壊れた笑顔”
公園のベンチに、
美音は一人で座っていた。
夜の光に照らされた横顔は、
普段のアイドル“美音”そのままだった。
しかし――表情はどこかおかしい。
「美音ちゃん!」
麗が駆け寄ると、美音はふわりと微笑んだ。
「麗ちゃん……来てくれたんだね。
うれしいよ……すごく。」
口元は柔らかいのに、
目だけは泣いたように赤い。
「ごめんね……急に呼び出して。
でも、麗ちゃんに……話せるの、あなただけで……」
「美音ちゃん……何かあったの?」
「うん……いろいろ……ね」
膝の上で組んだ指が震えている。
それを見て麗は胸が苦しくなる。
◆3 “守りたい人”の話
「ねぇ、麗ちゃん……
もし……大切な人が悪いことをしていたら……
どうする?」
「え……?」
「ねぇ……どうするの?」
美音の声が震える。
泣きそうなのに、笑おうとしている。
「その人を……守りたいって思ったら……
どうすればいいの?」
麗は返答に迷った。
(大切な人……?
でも、美音ちゃんには……そんな素振りは……)
「美音ちゃん……誰のことを言ってるの?」
「…………」
美音は俯き、ひとつ息を吸った。
「ずっと……探してる人がいるの」
「探してる……人?」
「うん……
小さいころに離れ離れになったの。
その人は……優しくて……でも弱くて……
いつも私を守ってくれたのに……
本当は守られていたのは“私のほう”で……」
麗はハッとする。
(兄……?
いや、でも確証がない……)
「会いたい……もう一度だけでいい……
その人が傷ついていたら……私が守るの……
たとえ……その人が、悪い道を歩いていても……」
最後の部分は、
ほとんど涙声だった。
◆4 心の奥の叫び
「ねぇ麗ちゃん……」
美音はゆっくり顔を上げた。
涙が頬を伝っていた。
「悪いことしてる人でも……
愛していいのかな……?」
その言葉は、
麗の胸に鋭く突き刺さった。
「……いいよ。
誰かを想う気持ちは、悪くないよ。」
「ほんとに……?」
「うん。
でも……守る方法は“犯罪を隠すこと”とは限らない。
本当に守るなら……
その人を正しい道に戻すことじゃないかな……?」
美音はその言葉に、
ふるりと小さく震えた。
「麗ちゃんは……やっぱり……優しいね……」
美音の笑顔は、もう壊れかけていた。
◆5 柚葉の尾行
その頃、ベンチから10メートル離れた木陰。
柚葉「麗がんばれ……!」
鮫島「がんばる…って何をだ」
柚葉「わからん」
鮫島は眉間を押さえる。
「というか、お前……隠れる気あんのか」
「あるよ!? ほら!」
柚葉は木の陰に隠れたつもりだが、
彼女の髪も腕も普通に木からはみ出ていた。
「バレバレなんだよ……」
◆6 本当の“問い”
「ねぇ麗ちゃん……」
美音の声が少し低くなった。
「影喰いのピエロが……
二人いるって……思う?」
麗は息を飲む。
「美音ちゃん……どうして……?」
「ただの……興味。
麗ちゃんは、どう推理してるのかなって……」
麗は慎重に答える。
「……うん。
二人いると思う。
しかも……
“本物は誰かを守るために動いてる”」
その瞬間。
美音の肩がピクリと跳ねた。
(……やっぱり)
麗は確信した。
美音は“影武者の事件”を知っている。
知りすぎている。
しかし、まだ決定的な証拠はない。
◆7 美音の決意と、別れの言葉
「麗ちゃん……ありがとう」
「え……?」
「麗ちゃんに会えて……よかった……
本当に。」
「美音ちゃん……?」
「ごめんね。
私……これ以上は、言えないの。」
そう言って美音は立ち上がり、
小さく頭を下げて歩き出した。
「待って、美音ちゃん!」
麗が手を伸ばす。
しかし美音は振り返らない。
街灯の下、
美音の影は細く、揺れていた。
(美音ちゃん……
あなたは……誰を守ろうとしてるの?)
麗の問いは夜空に消えた。
◆8 影武者への確信
美音が遠ざかったあと、
麗は気づいた。
「美音ちゃん……
左手の手首……」
薄く、赤い痕。
まるで“縄の擦れた跡”だった。
(あれは……
襲われた時のもの……?
それとも――)
麗の頭の中で、
長く伸びた影がひとつに結びつく。
「……そうか。
犯人は……」
言いかけた瞬間、
スマホが震えた。
【父・拓哉】
《麗、今どこだ。
影喰いのピエロ……動いた。》
全身が震えた。
「……また事件が……?」




