第13章 分岐する影――三つの追跡が始まる
◆1 仮説の確信へ
翌朝。
大学の自習スペースで、麗はノートPCを開き、事件整理をしていた。
「……やっぱり、影喰いのピエロは二人いる。」
麗が呟いた瞬間、柚葉が教科書を抱えて座ってくる。
「ねぇ、麗。最近ほんと眠そう……寝てる?
“暴走モード”に片足入りかけてるよ?」
「寝てるよ……三時間くらい……」
「寝てないのと同じじゃん!」
柚葉に指でこめかみを突かれ、麗は眉を下げた。
「でも柚葉……わたし、気づいちゃったんだ」
「え、なにに?」
「影喰いのピエロの犯行。
本物と偽物が、交互に入れ替わってる。」
柚葉は「え?」と固まる。
「え、二人いるの?
え、分身? 量子分裂? タイムスリップ??」
「全部違う……」
麗は柚葉の頭にそっと手を置いた。
「でもね……どちらも“同じ目的”で動いてる。
だから余計にわかりづらいの。」
その言葉は、
後に“真実”を貫く核心の一言となる。
◆2 美音、壊れゆく笑顔
同じころ。
シルキードロップの練習スタジオでは、
美音がダンスの振り付けを間違えた。
「み、みおんちゃん? どうしたの?
珍しいよ、間違えるなんて……」
「あ……うん。ごめんね。
少し寝不足で……」
メンバーは心配して寄ってきたが、
美音は穏やかな笑顔を崩さない。
(大丈夫……今日は、やらなくていい日。
だから……笑っていられる)
笑顔は完璧に見える。
だが、口元だけが笑い、目だけが泣いている。
鏡の中の自分を見つめながら、美音は思う。
(兄さん……わたし……うまく守れてる?)
その問いへの答えは
誰にも返ってこない。
◆3 朔弥、本物の“影武者”捜索を始める
夜。
薄暗い車内。
朔弥は黒い手袋を外し、拳を握りしめた。
「俺がやっていない犯行が一つ……いや二つ。
これは明らかに意図的だ。」
朔弥は影喰いのピエロのマスクを見つめる。
「俺を真似できるのは、
俺を深く知るやつだけだ。」
過去の記憶をたどるが――
途中で記憶が途切れる。
(俺を、誰かが知ってる……
だが、誰だ?)
その名を呼ぶ記憶は、
幼い頃の“手をつないだ温かさ”だけを残し、
顔も名前も思い出せない。
◆4 コミカル:麗・柚葉・美音の三角図
次の日のキャンパス。
「麗ちゃん、お昼食べよ?」
美音が笑顔で寄ってくる。
「うん、いい……けど……?」
美音が麗の腕を抱くと、
柚葉が高速で割って入る。
「はいそこストップ!!
麗は私と食べるって約束したよね!?
してないけど、したってことで!!」
「柚葉ちゃん、かわいいなぁ……嫉妬?」
「してない!!」
おろおろする麗。
そんな三人の様子を離れた場所から眺める人物がいた。
——鮫島。
(護衛しろって言われたが……
なんだこの……修羅場みたいなのは)
美音の笑顔を見た瞬間、
鮫島の眉がピクリと動く。
(……なんだ、この違和感。
笑ってるのに……目が、笑ってない?)
鮫島は、一瞬だけ“刑事の目”に戻った。
◆5 黒澤の計算
黒澤はモニターの前で指を組む。
「分裂が進んだな。
麗、美音、朔弥、鮫島……」
薄く笑いながら言う。
「影が二つに割れると、人間関係も割れる。
それが混乱と真実の両方を生む。」
竹中直人の声色で皮肉っぽく囁く。
「さあ……
そろそろ佳境だ。
“影武者”を——表舞台に引きずり出そう。」
◆6 麗、核心への接近
夜。
自室でデータを並べていた麗は、
ついに“決定的な線”を引く。
「……犯行を真似できるのは、
“影喰いのピエロの近しい人物”。」
そして、もう一つ。
「偽物は……
“影喰いのピエロを守ろうとしている”。」
胸が痛くなる。
(守る……ってことは……
偽物のピエロは、
本物の犯人に……感情がある?)
そのとき、スマホが震えた。
【美音】
《麗ちゃん、今から会える……?
ちょっと、話したいことがあって……》
麗の心臓が跳ねる。
「え……美音ちゃん?」
麗はすぐ返信した。
《行くよ。どこに?》
返ってくる文字は短い。
《……“あの日と同じ場所”》
(※美音が襲われた場所に近い公園)
麗は息を飲んだ。
「行かなきゃ……
これは、最後のピースかもしれない。」
◆7 美音、崩れゆく笑顔の告白(直前)
公園のベンチに座る美音。
夜風に吹かれながら、
笑顔が少しずつ崩れ始めていた。
「麗ちゃん……どうしよう……
私……守りたいの……
大切な人を……」
目からは涙。
口元は笑顔のまま。
(これは……もう、限界が近い)




