第12章 影の分裂 ―― 影武者の第二犯行
◆1 事件発生の報せ
朝のキャンパス。
麗が図書館に入ろうとした瞬間、スマホが震えた。
【鮫島】
《事件だ。来れるか。影喰いのピエロ、4件目だ。》
麗の顔色が変わる。
「柚葉、ごめん。講義……また後日ノート借りる。」
「また!? 麗、単位が死ぬやつじゃん!」
「影喰いのピエロが動いた。」
「……行ってらっしゃい。」
柚葉は寂しげだが、背中を押した。
「推理、ほどほどにね。暴走モードはもう禁止。」
「わかってる。ありがと。」
麗は駆け出した。
◆2 事件4――“不自然な現場”
都内の小さなスタジオ。
被害者は人気動画クリエイター。
罪の粒がスタジオの床に散っている。
だが――麗は入った瞬間に違和感を覚えた。
「……やっぱり。散布の癖が違う。」
鮫島が横を見る。
「言ってみろ。」
「2つ目の事件と、粒の“投げ方”が似てます。
でも……やっぱり“少しだけ不器用”です。」
「本物じゃない、と。」
「はい。これは“模倣犯”。
犯人は影喰いのピエロを完璧には再現できていません。」
刑事たちがざわつく。
「じゃあ……2人いるってことかよ。」
「本物と偽物……マジか。」
麗は冷静に付け加える。
「でも、偽物は“本物とつながりが近い”はずです。
でなければ、本物の犯行をここまで再現できない。」
(※美音が本物=朔弥に関わりがあるから、再現度が高い)
ただし麗はまだ、
“犯人=美音”という視点は持てない。
◆3 美音の不穏――「罪の粒」が服に
その日の夕方。
「麗ちゃん……」
美音が大学の前で待っていた。
柚葉は「また来た!」と驚く。
「今日、時間あるかな……?」
「う、うん、大丈夫だけど……」
美音が風に揺られる髪を押さえると——
麗はふと違和感に気づいた。
(……?
美音ちゃんの袖に、粉……?)
ほんの小さな“黒い粒”。
昨日の現場で見た“罪の粒”によく似ている。
「美音ちゃん、服……汚れてるよ。」
「あ……レッスンで転んじゃって……」
美音は軽く笑って払うが、
麗の胸にざらりとした違和感が残った。
(まさか……いや、違う。
美音ちゃんは被害者だったんだし……
そんなことあるはずないじゃん。)
しかし、読者には
「美音が犯行に関与している」
と薄く示されるシーンになっている。
◆4 コメディパート:柚葉の嫉妬
なぜか、美音は麗と腕を組む。
「麗ちゃん、今日は一緒に帰ろ?」
「えっ!? あ、あの……?」
柚葉が即座に反応。
「わたしの麗なんだけど!?
なんでアイドルがサラッと連れてくの!?
マネージャーに怒られるよ!?」
「柚葉ちゃん、可愛い。麗ちゃんの親友だよね。
奪ったりしないよ?」
(※絶対に言葉の裏に何かあるけど
柚葉には一切わからない)
「奪わないよね!? 本当に!? 契約書にサインして!」
「そんな怖いもの出さないで!」
麗は苦笑しながら二人を引き離した。
ただのコミカルシーンに見えるが、
美音はどこか“張り付いた笑顔”を崩さない。
(……兄さんのことを聞かれたら終わる。
誰にも……知られちゃいけない。)
◆5 朔弥、本物の推理
夜。
倉庫街の薄暗い空間。
白い仮面を手にした朔弥は呟く。
「——犯行が2つ。
俺じゃない犯行が混ざってる。」
影喰いのピエロの動き方を、
朔弥自身が一番よく知っている。
「模倣は……雑だ。
でも“本物に近すぎる”。
俺のことをよく知る人物……?」
しかし朔弥の記憶は、幼い頃で止まったまま。
だから思い至らない。
——最大の近しい存在は、実の妹。
◆6 黒澤の囁き
暗闇の部屋。
モニターに映るのは、
麗、美音、朔弥、そして鮫島。
「……分裂したか。面白い。」
黒澤は赤ワインを揺らしながら笑う。
「影は増えれば増えるほど、真実が乱れる。
朔弥……お前はどこまで堕ちる?
麗、お前はどこまで辿れる?」
竹中直人のような皮肉な声色で。
「影武者が入ると、推理は必ず捻じれる。
さあ、混乱してみせてくれ。」
彼は狂気と芸術性を混ぜ合わせた男。
その“犯罪の監督としての喜び”が満ちていた。
◆7 麗、決定的な違和感を得る
夜遅く。
麗は事件4の写真を並べ、
最初の2事件との比較を始めた。
「やっぱりおかしい。
事件1・2は“影喰いのリズム”。
でも事件3・4は“真似”。」
だが、ここで麗は大きな気づきを得る。
「……犯行は“2つの影”で進んでる。
でも——目的は同じ。
“被害者の罪を暴くこと”。」
その瞬間、鳥肌が立った。
「じゃあ……影武者は、本物の犯行を
“手助けしている”?」
自分で言ってから、
もっと恐ろしい仮説が浮かんだ。
「——本物(朔弥)は、
身近に“自分を庇う誰か”を失っている?」
それは、
美音の心の奥で泣いている真実に
ほんの少しだけ近づいた瞬間だった。
◆8 美音の部屋――涙の独白
深夜。
寮のシャワーの音が止む。
美音は鏡の前でタオルを持ったまま立ち尽くしていた。
目の下には薄いクマ。
笑顔は疲れ切っている。
「……兄さん。
どうして……どうして戻ってきたの……?」
涙がぽろりと落ちる。
「捕まらないで……
お願い……
私が……全部やるから……」
だが、その“全部”が
麗や警察を混乱させ
兄を追い詰めていることには気づいていない。
(麗ちゃん……ごめんね……
あなた、優しいから……
巻き込みたくないのに……)
美音の心の強張りは
限界に近づいていた。




