表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/19

第11章 再起動(リブート)する推理 ―― 影武者の鼓動

 再起動リブートする推理 ―― 影武者の鼓動


 ◆1 翌朝:静かな目覚め


 麗は久しぶりに深く眠った気がした。


 目を開けると、ソファのそばに

 毛布が丁寧に掛けられている。


(……父さん。)


 胸の奥がじんと熱くなる。


 そのとき——スマホが震えた。


【柚葉】

 《起きた!? 生きてる!?》

 《鮫島さんめっちゃ心配してたよ!!》

 《あと、授業今日3コマあるから絶対来て!!》


「……うん。行くよ。」


 麗は深呼吸し、鏡を見つめた。


 焦りと疲れで曇っていた瞳は、

 少しだけ“本来の透明さ”を取り戻していた。


 ◆2 麗の復帰 ――キャンパスの空気


「麗ーーー!!」


 柚葉が走ってきて、勢いよく抱きつく。


「死んでなくてよかったーーーー!!」


「ちょ、ゆず、首しめてるからっ……!」


 横で男子学生たちがひそひそ。


「宵宮さん、生き返ったな……」

「うちのゼミのエースが危うかったってマジ?」

「あの子、影喰いのピエロと殴り合いするんじゃね?」


 麗は苦笑し、

 柚葉は「失礼な!」とぷくっと頬を膨らませる。


「でも……心配したんだからね。」


「……ごめん。

 もう、暴走しないよ。ちゃんと考えるから。」


「うん……。

 麗が麗に戻ったなら、それでいいよ。」


 柚葉の笑顔が、麗の胸に灯をともした。


 ◆3 美音、再び舞台へ――“偶然を装った接触”


 その日の放課後。


 麗が校門を出ると、

 マスクと帽子で変装した美音が立っていた。


「——麗ちゃん。」


「み、美音ちゃん!?

 ここ、大学……大丈夫なの!?」


「ちょっと抜けてきたの。

 どうしても麗ちゃんに会いたくて。」


 美音はそう言って微笑むが、

 その笑顔の奥に、薄い影がある。


 麗は気づかない。

 だが読者には“何か隠している”と伝わる程度。


「この前……助けてくれたじゃない?

 本当にありがとう。」


「う、ううん!

 困ったときはお互いさまというか!」


 柚葉が麗の後ろでひそひそ。


(ねえ麗……あの子、本当にただの被害者なの?

 なんか……目の奥の光が鋭いっていうか……

 アイドル特有のやつなの?)


(柚葉……言わないで……!)


 美音は急に表情を曇らせた。


「……私、あれから変なんだ。

 誰かにつけられてる気がして……

 影がずっと追いかけてくるみたいで。」


 麗の背筋が反応する。


「影喰いのピエロ……?」


「わからない。

 でも……怖いの。」


 ——本当は

 美音が“兄を守るために影武者を演じている”せいで

 罪悪感と緊張で精神が削れているだけ。


 しかし麗はそれに気づけない。


「もし……また何かあったら、必ず連絡して。」


「うん……ありがとう。

 麗ちゃんは、本当に優しいね。」


 美音はそう言い、

 一瞬だけ——感情を消した目で麗を見た。


(……ごめんね、麗ちゃん。

 あなたは巻き込みたくないのに。

 でも——兄さんは、もっと巻き込ませない。)


 美音は足早に去っていった。


 麗の胸に、不穏なざわめきが芽生えた。


 ◆4 警視庁 ―― 鮫島の咆哮


「宵宮。戻ってこれるか?」


 捜査会議室で、鮫島が煙草を揉み消す。


「はい。

 昨日の私は……冷静じゃなかった。

 もう一度、ゼロから現場を見ます。」


「よし。」


 鮫島はうなずいたが、次の瞬間銃のような声で怒鳴った。


「だがな宵宮ァ!!

 勝手に飛び出したらぶっ飛ばすからな!!!」


「は、はい!!」


 麗は背筋を正す。


「あと母さんと総監から“お仕置きフルコース”預かってるから覚悟しとけ。」


「ちょ、なんでその情報知ってるんですか!!」


「捜査員の情報網をなめんな。」


 周囲の刑事たちがくすくす笑う。


 この何気ない空気が、

 麗の心を少しずつ正常に戻していった。


 ◆5 麗、再推理開始――“影武者の違和感”


 麗は鮫島に新しい資料を要求した。


「事件3……

 罪の粒の散布が“手作業っぽい”んです。」


「お前、昨日は

 “犯人がメッセージを変えた”って言ってただろ。」


「違います。

 昨日の私は……ただの暴走です。」


 鮫島が口角を上げる。


「認めるのはえらいな。」


「……散布の“ばらけ方”が違うんです。

 最初の2事件は“歩きながら自然に落としてる”。

 でも3件目は“撒こうとして撒けてない”動き。」


「つまり……?」


「“別人が模倣した”可能性が高いです。」


 鮫島が目を細めた。


「宵宮。

 本物と偽物がいるって言いたいのか。」


「はい。

 でも——まだ特定できるほどの情報はありません。」


(※本物=朔弥

 偽物=美音

 麗はまだそこまでは気づかないが、方向性としては正しい)


 ◆6 その頃――本物の影喰いのピエロ(朔弥)


 夜の倉庫街。


 白い仮面の男が、

 闇に溶けるように歩いていた。


 朔弥は小さくつぶやく。


「……また“違う犯行”があった。」


 独特の犯罪者の勘が告げていた。


(俺じゃない誰かが……俺になりすましている。)


 そして、彼は知らない。


 自分が追うべき影は

 “自分の妹”だということを——。


 ◆7 美音の秘密ノート


 深夜。

 美音は寮の自室で、震えながらノートを書いていた。


 《兄さんのことを知ってしまった。

 でも言えない。

 言ったら兄さんは終わる。

 私が守らなきゃ。

 誰にも、絶対に……》


 ページの端には

 “影喰いのピエロの仮面の簡単なスケッチ”があった。


 だが、それに涙の跡が落ちる。


(ごめんね……ごめんね兄さん……

 私が……罪をかぶるから……)


 美音は自分の胸の奥から湧き上がる

 “横溢する恐怖と愛情”に

 押しつぶされそうになっていた。


 ◆8 翌日——麗は“正しい方向”に戻る


「鮫島さん。

 もう一度、最初から事件を並べ直しませんか?」


「いいだろう。お前の復活記念だ。」


 麗は静かに言った。


「私はもう暴走しません。

 ……影喰いのピエロは、必ず捕まえます。」


(その目だ。その目に戻ってくれりゃ十分だよ、宵宮。)

 鮫島は心の中でつぶやいた。


 麗の推理は

 “もう一度、真実へ向けて動き始めた”。


 しかしまだ——

 “美音の影武者”という最大の狂いは

 彼女の前では霧のように見えない。


 だが、その霧は

 次の事件でゆっくり晴れていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ