第10章 ズレた答え、すれ違う影 ―― 暴走の火蓋
◆1 偽事件(美音)の発生 ――「完璧にズレた罪」
深夜の河川敷。
白い仮面が闇に浮かぶ。
本物より背は低く、動きもぎこちない。
しかし、ライトの届かない暗所では
その違和感は闇に飲まれる。
(兄さんには……絶対、触れさせない。)
美音は、震える指で袋を開き、
“罪の粒”を散らした。
本物のように自然には飛ばない。
手作業でばらまくため、散布の分布もバラバラだ。
だが、目的は充分。
(これで……兄さんの動きは隠せる。
追われるのは……私。
それでいい……)
美音は深夜の風に衣を揺らし、
ぎこちなく河川敷を後にした。
――この美音の行動こそが、
麗の推理を“根本からズラす”決定打となる。
◆2 翌朝:現場に集まる麗たち
「……おかしい。おかしすぎる……」
麗は現場を見回しながらつぶやいた。
鮫島が腕を組む。
「宵宮。
散布の形状が今までと違う。
多少の差じゃない。まるで別の犯行だ。」
「違う。
違うんです鮫島さん……!」
麗の目は、焦りと興奮で妙にギラギラしていた。
「これは……犯人が意図的に“偽情報”を出しているんです!
本当の目的を隠すために!!」
(※※違う。本当は美音が犯人をかばった結果のズレ)
柚葉が不安げに袖を引く。
「麗……落ち着いて……?」
「落ち着いてる!!」
「いや、絶対落ち着いてないから!!」
鮫島は苦い顔をし、麗に指摘する。
「この事件は、犯人が焦ってるとは考えられない。
むしろ落ち着きがなさすぎる。
手口の差が大きすぎるんだ。」
麗は言い返す。
「手口が変わったんじゃない。
“犯人がメッセージ性を変えたんです”!」
鮫島は眉をひそめた。
「宵宮、お前……何か焦ってるな?」
「焦ってません!」
柚葉(いや絶対焦ってるよ、むしろ怖いよこの子……)
◆3 麗の暴走開始 ――“一つの真相に固執”
麗は現場のフェンスをつかみ、
深呼吸した後、鋭い声で言った。
「鮫島さん。
影喰いのピエロは“犯行ごとに目的を変えてる”。
これまでのパターンはもう役に立ちません!」
「……宵宮。
お前は推理で“飛びすぎ”なんだよ。
落ち着いて、もう一度現場全体を——」
「違うんです!
鮫島さんは影喰いのピエロをまだ“ひとりの人間”だと思ってる。
もう違うんですよ。
影喰いのピエロは……“もっと大きい存在”なんですよ!」
(※読者視点:美音の影武者の存在に気づかず、犯人像を巨大化)
「犯行に“複数の性格”が存在するのは
犯人が自分を分裂させている証拠……!」
鮫島の顔が険しくなる。
「宵宮……それはもう推理じゃない。
妄想の域だ。」
「否定しないで!!
私の推理は正しい!!」
柚葉が涙目で止める。
「麗、やめて……!!
こんなの麗じゃないよ……!」
麗は、2人を振り払った。
その目は、まるで追い詰められた獣のようだった。
◆4 暴走の極み――「私が犯人を追う!」
麗はその場で宣言した。
「私は今日から、
鮫島さん、警察、誰の意見も聞きません!
“私だけの推理”で犯人を捕まえます!!」
鮫島が叫ぶ。
「宵宮――待て!!
お前は今、正常じゃない!!」
柚葉も叫ぶ。
「麗!!いかないで!!」
だが麗は踵を返し、
誰の呼び止めにも反応せず
走り去っていった。
その背中は、
まるで何かに追い立てられるようだった。
◆5 夜――暴走の果てへ向かう麗
夜。
麗はひとり、アパートの部屋で壁いっぱいに
事件のチャートを貼り付けていた。
そこには
“犯行手口の変化”
“罪の粒の散布差”
“本物と偽物の矛盾”
が書き込まれているが——
全部“1人の犯人の計画”として無理やり接続されていた。
「つながる……
つながる……全部つながる……
影喰いのピエロは……
“人格を分裂させた怪物”――」
そこへ。
部屋のドアがノックされた。
麗は一切警戒もせず、
ドアを開けてしまう。
二言目には文句を言おうとした。
「勝手に来ないでって言ったはず——」
しかし、声は止まる。
そこに立っていたのは——
宵宮拓哉。
麗の父。
優しげな目をしているが、
その奥に芯の通った静かな強さがある。
「麗。
……ずいぶん、追い詰められてるな。」
◆6 父の一言が、すべてを止める
「父さん……なんで……?」
「お前が“間違いの推理”に踏み込んだ時、
母さんと大河から連絡が来た。」
「……私の推理は……正しい……!」
「麗。」
拓哉は、静かに娘の肩に手を置いた。
その瞬間、麗の呼吸が荒くなる。
「……やめて……
今止められたら、全部崩れる……」
「崩れていいんだよ。」
麗の目が揺れる。
「推理はな、
“自分の正しさを証明する作業”じゃない。
“真実と向き合う覚悟”だ。」
麗は震えた。
「麗。
お前は今、真実から逃げてる。」
——その一言が
麗の暴走をピタリと止めた。
麗の膝が崩れ、拓哉の胸へ倒れ込む。
「……お父さん……
私……間違って……た……?」
「間違っていいんだよ。
間違ったら、戻せばいい。」
拓哉は娘の頭を優しく撫でた。
「これからは、影喰いのピエロを追え。
黒澤は……俺が追う。」
麗は涙を流しながら頷いた。




