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第8話


 クソみてぇな未来を鉄拳制裁してやって、一カ月。

 オレは誠に不本意ながら講義室で訳の分からぬ呪文を聞かされ、口から魂を抜け落とすという醜態を晒しながらチャイムが響くまでの時間を過ごしていた。


「はは。随分と堪えるみたいだね、バトルジャンキーくん」


 講義が終わって候補生が出ていく中、煽るように笑う声がした。

 オレはオレを煽る人間の声に人一倍耳聡い。音速で隣に視線を向ければ、オレの学友こと前髪片目隠しのシリウスが、余裕げに魔法玉を光らせていた。


 それは先のギルド正規員な講師が使用していたものであり、その精密な球形は魔法の使えないオレにでも分かるほどに洗練されている。


 いや、そんなことよりだ。


「なんでお前が中級クラス以上限定の講義を受けているのか」

「君と同じで、ランク戦を勝ち抜いて序列を上げたからに決まっているじゃないか」


 はぁ~~~~……理不尽だ。いかにも当たり前みたいな笑顔で言わないでくれ。

 なんでこんな魔法の才能が溢れた奴がビリ争いしていたのか。才能があるのにのらりくらりしているとか、才能がなくてヒーヒー言ってるオレに対する冒涜だろ。


「なに、僕はまだ初級魔法しか使っていないじゃないか。剣はもちろん、魔法もケツ争いに相応しい無能っぷりだよ」

「まるで上級魔法もその気になれば使えるような言い草だな」

「バトルジャンキーくんこそ、実はすごい魔法が使えたりするんじゃないのかなぁ」


 誰が戦闘狂だ! ガタリと席を立ち上がる。

 第四位をぶっ倒すという大物喰らいをしたせいで、近頃のオレには妙な異名が色々と付けられて困る。


「当面のところ、オレはその的外れな異名を付けた人間をぶっ飛ばすつもりだ」

「じゃあ僕とランク戦をすることになるね。楽しみだ。同意と受け取って準備して来よう」


 ニコニコと立ち上がるシリウス。

 片や物理専門。片や魔法専門。相性はオレにとってだけ最悪な理不尽なる世界である。

 オレはランク戦の申請に受付へ向かうシリウスの右脚に縋り付き、人目も憚らず額を床に擦り付けた。


「大変申し訳ございませんでした。全て私の不徳が致すところなのでご容赦ください」

「そんなに戦いたくないのか……」


 当然である。

 オレは無理やり鍛えられた肉体を持つだけの才能ミソッカス子であり、将来は未来視を悪用して楽して一攫千金を企む所存の自他と共に認めるクズである。

 それを青い悪魔と森の魔女の策略によって完全破壊され、ギルド『英雄の守り人』とかいう人外魔境に身を投じざるを得なくなった被害者でもある。


「シーアンっ! ボクと遊びに行こっ!!」


 ホッ……ホギャアッッ!!


 白に近い紫色の髪が、流星のごとく突風を吹き荒れて登場する。

 オレは究極のインドア星人だと知っていてこの対応(バカデカボイス)だから、本当に恐ろしい幼馴染だ。


「おい。この俺に勝った分際で、そのような醜態を晒してくれるな」


 しかもあれ以来、もう一人厄介なツンツン赤髪が現れた。

 青き魔王様の配下筆頭のオレに何を求めているのか、レッシュは隙あらば礼儀作法をオレに叩き込んでくるお屋敷のメイドさんも真っ青な対応だ。

 もう最近は彼が新しい母親になったような気さえするね。複雑な家庭事情だよ。


「やぁ、レッシュくん。君は最近ランク戦を活発にやっているね」

「当然だ。第四位の座はそこの昼行灯にしか渡すつもりがないからな。後追いの連中が多くて困る」

「オレは要らないんだが……」


 最下級クラスから飛び級したせいで、今のオレは窒息死寸前のドキツイ補修に溺れる毎日である。

 これ以上負担を増やしては四肢が爆散しそうなので、よし、今日は寮に帰って休息を。


「遊びに行こっ!!」

「自慢じゃないがオレは金がない」

「じゃあランク戦頑張れば良いじゃん!!」

「オレに死ねと言うのか」


 一体コイツは10年ほどオレと一緒にいて、オレの何を学んだのだろう。そろそろオレが汗水垂らしたくない人材であることを認識して欲しいのだが。


 ため息を吐いている間にも、ルルアに腕を引っ張られて要塞都市ネオ・フロンティアもとい『英雄の守り人』を設立せし魔女によって支配された箱庭での遊びに連行される。当然、シリウスとレッシュも付いてくる。


 やれやれ、人気者は困っちまうぜ。


 富める者が貧しき者を救うのは当然のことで、飲食店でオレはお零れを預かり、解散。ルルアとレッシュは最上級クラスらしく暴力と富で出来上がった豪華な寮へ、シリウスは中堅らしいありふれた寮へ、そしてオレは幽霊屋敷みたいなオンボロ寮へと帰る。


「いつの間にこんな差が開いてしまったのか」


 シリウスと同じ中級クラスである以上、手元に入る魔女支配圏限定通貨の量は同じはずなんだがな。どうにも未来技術実現への投資をしていると、金は泡のように消えていくのだ。


 とは言え、今日は飢えと格闘しながら眠りにつくこともない。

 右手の袋に入った夜ご(ルルアにせびった)に、オレは弾むような足取りで寮の階段に軋み音を鳴らして。


「やぁ、少年。中食を片手に帰宅とは、随分と余裕に溢れた生活をしているじゃないか」


……なんか、激ヤセお姉さんがオレの家の前で三角座りしているんだが……。


「一つ、お姉さんに分けて貰えないかな?」


 ずいと、お姉さんはヤサグレ目元にオレを覗き込んだ。



 ♦♦♦



 今からおよそ七十年ほど前、四代目勇者の仲間であった僧侶ティナは、ギルド『英雄の守り人』を設立した。


 人間の常識を知らぬ魔女は街の支配権を吸収していくうちにギルドで学校的要素も担うようになり、現在、『英雄の守り人』は鬼才の坩堝として大陸随一の威光を放つと同時に、奇才が身を潜める闇の封印地としても恐れられている。


「少年。先っちょだけ……先っちょだけでいいから……」


 なんて、重い瞼の奥で目を血走るこのお姉さんは、間違いなく奇人枠だ。


 あぁ、どうしてオレの周りには変な奴ばかりが寄って集ってくるのか。

 オレは極力汗水を垂らさずに生きたいと思っているだけなのに。類は友を呼ぶという言葉は棚に上げておく。


「お姉さんみたいな美人にご飯を恵めるんだ。少年にとってはご褒美ってやつだろ?」

「馬鹿言え。これはオレの貴重な飯だぞ」


 他人の寮の玄関前に座り込む変人にやる飯はない。よし、今晩はどこかの公園で独り飯をかち込むにしよう。

 継接ぎローブを纏って、さわりとライトグリーンの長髪を揺らすお姉さんに背中を向ける。


「あぅぅ。少年~、待ってぇ~……お姉さんを見捨てないでぇ~……」


 途端にお姉さんはへなへなと廊下に膝を突いた。琥珀色の瞳に涙を溜めてハスキーボイスを響かせる醜態である。

 あまりの情けなさに、オレの優し過ぎる部分が振り返っちゃったね。


「……な、なんだ。あれこれ言って、やっぱりお姉さんのことが好きなんじゃないか……」


 ブツクサ言いながら焼きそばを奪い取り、ガッツガッツと柔らかそうな頬にかき込むお姉さんである。

 先っちょだけって言ってたのに……その、遠慮というものは知らないのだろうか。


「ご飯をくれたお礼だよ。お姉さんが良いことを教えてあげようじゃないか」


 ろくでもないことの予感。オレは聖域たる部屋へ逃げ込もうとしたが、脱出口は既に背丈の高いお姉さんの両手で塞がれていた。


「お礼の言葉は?」

「……アリガトゴザイマス」

「うむ。よろしい」


……イヤだァァァァアアッッ!! 厄ネタの匂いしかしないよ~、エンエンエン!!


 絶対に関わりたくない人種ブッチギリのカスなお姉さんに連れられた先は、街中のどこにでもある公園だった。

 これが絶世の美女との逢瀬ならそれなりに風情もあったものだが、絶賛隣に居るのは頭のイカれたお姉さんである。帰りたい。なんか師匠とキャラ被りそうだし関わる必要もないでしょ。あっ、あの魔女は♂だからべつか……。


「良いかい、少年。こういうベンチに近い側溝にはお金が落ちていることもあるんだ。ほら、目を凝らしてごらん」


 お姉さんはボロボロのローブが汚れることも厭わず路上に両膝を突き、ベンチの下を覗き込んだ。

 人には捨ててはいけないプライドというものがあるらしい。オレは揺れるデカケツから目を離せないまま、大切なことに固く頷いた。


「遠慮をする必要はないよ。ここはお姉さんの縄張りだからね。同業者に文句を言われることもないさ」

「もう終わりだよこの魔女自治領」


 過激な実力主義の弊害出まくりじゃん。深夜にコインを求めて彷徨う浮浪者が他にもいて堪るか。


「う~ん。収穫はなかったね、少年」

「周りの目が酷いことになってるんだが……」

「お姉さんは優秀だからね。誰にも文句は言わせないんだ」


 深夜に公園でラブラブしている恋人たちもドン引きである。頼むから誰か注意しろ。こんなカスなお姉さんが野放しとか絶対に許されない。

 オレ? オレは少しの汗水も垂らしたくないので御免被る。


「でも、このまま少年を帰すのも忍びないなぁ」


 むしろ今すぐ帰してくれ。これ以上カスなお姉さんと共に居ては、周囲から同類認定される気がする。

 オレはオレの名誉(既に地の底)のためにいざ寮へと足を踏み出した瞬間、ふと、身体が温かくなった。


 なんだ、この全身を包む温かい魔法は……。


「魔力がつっかえていたからね。屑を洗い流してあげたよ」

「なるほど。そんなことがあったのか」

「まっ、少年の魔力量はゴミカスだから、優秀なお姉さんと違って魔法が使えないことに変わりはないけどね」


 言っていることはカスだが、助かった。これなら魔法講義も少しはやりやすくなるだろう。

 オレがクソザコナメクジである意外な一因に顎へ手を当てていると、ポンと両手で肩を叩かれた。

 お姉さんは重い二重の奥で、にこにこと琥珀色の瞳を細める。


「それじゃあ、このお礼に明日の朝ご飯も楽しみにしているよ、少年」


……ん?




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