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未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない()  作者: うずまきしろう
クソ雑魚ナメクジ、世界最強ギルドにぶち込まれる
6/20

第6話 

 前回のあらすじ 努力確定


 ギルド『英雄の守り人』は、魔王の脅威へ対抗するために創設された。


 年に一度開かれる選抜試験に、明確な年齢制限はない。種族の分け隔てもない。身分さえ評価となり得ない。数多の入団希望者を蹴落とし、己が実力を示しさえすれば、誰もが門戸を叩くことが許される。

 そして、晴れて候補生に選ばれてなお、ギルドから熾烈な争いを要求される。


 

 それが──ランク戦。候補生たちの序列を左右する決闘だ。



 勝負の勝ち負けによって雌雄を決するのは実力だけではない。ランク戦の結果により、彼らはギルド内での身分を変動する。

 序列が高ければ、『英雄の守り人』の自治領である要塞都市ネオ・フロンティアで利用できる独自通貨の支給は増し、そのまた逆も然り。

 衣食住が己が実力一つで左右されるそのシステムはある種異常であり、だがそれが、己が才覚信じて『英雄の守り人』を訪れた者の全てなのだ。


 なればこそ──切磋琢磨せよ、未来の勇者たちよ。


 闘争の屍の頂点に立つ者こそが、聖剣を握るに相応しいのだから。



 ♦♦♦



「普通に無理だぞ??」


 痛いのヤダし辛いの怖い。明日からはまた引きコウモリになるつもりだぞオレは。

 大層ご機嫌に告げるルルアへと端的に返す。

 誕生日サプライズでも成功させたみたいな明るい笑顔は、瞬く間に真顔に固まったね。


「……えっ」


 えっ、じゃないだろ。コイツはどこまでオレを汗水でぐっちょぐちょにすれば気が済むのか。

 というか、本人の同意はどこへいった本人の同意は。……は? 師匠がギルド長特権で勝手に組んでくれた? 


 は~~~……これだから樹齢千年常識忘却系師匠は困る。ルールはルールとして守ってくれないと、街の治安が悪化することも忘れてしまったのだろうか。


「因みに、対戦相手は誰なんだい?」

「レッシュくん! ボクと同じクラスの!!」


 ルルアと同じクラスってことは、候補生の最上位クラスじゃねぇか。


「『爆熱』のレッシュ、か。確か、候補生ランキングは四位だね」

「消し炭になって終わりだろ……」

「シアンの魔力量ってスライムみたいに弱っちいもんね!」


 こんな場所に居られるか! オレは寮に帰らせてもらうぞ!!


「貴様が最下位か」


 終わってしまった。

 オレの希望は潰えたらしい。

 屋内訓練場に立ち入った大陸北部の領主のご子息なレッシュ様の足元に縋り付く。


「なぁ、今の世の中には足りていないものは対話による平和的解決だと思うんだが、お前はどう思う」

「頂点に立つ力こそが全てだ。逃がすと思っているのか?」


 なんだ、このツンツン赤髪のバーサーカーは。


「そこをなんとか。お前だって万が一にでも順位を落とす可能性は消したいだろ?」

「俺が貴様のような愚鈍に負けると? 思い上がりが甚だしい」


 駄目だ。なんか知らんが戦闘モードに入っている。これオレの言葉とか届かんぞ。


「新入生の中で最下位のグズとは聞いていたが……なるほど。己の強さをコケにされて顔一つ歪めんとは、噂の通りの能無しらしい」


 情報漏洩も甚だしい。オレの名誉権はどうなっているのか。

 ただ一生懸命生きている(隙あらばサボろうとしている)13歳を傷付けるシステムは許されない。オレは必ずやこの悪しき仕組みを作り上げた魔女をぶちのめすことを決意した。


「こんな奴に命運を託すとは、ルルア。貴様の目は節穴だな」

「ちゃんと見えてるもん!」


 むきーっ! と真っ白な頬を膨らますルルアである。


「そもそも、己の行方を他者に委ねること自体が、強き者としての資格がない証拠だが」

「シアンならきっとレッシュくんにだって勝っちゃうもんね!!」

「いいぞ、レッシュ! もっと言ってやれ!!」

「君はどっちの味方なんだろう」


 幼馴染の信頼が厚くて喜ばしいところだが、ガチのマジで無理である。


「ふん。ならば約束は違えるなよ。最下位、明日の放課後に闘技場でランク戦と行こうか」


 オレの不幸は確定してしまった。それでもギルド長室まで駆け込む努力を惜しまないのは、全てはオレの自堕落の為である。

 道場破りでもするように扉をゴンゴンとノックして、声を叫ぶ。


「出てこい! ここに居るのは分かっているんだぞ魔女め!! 或いは人間のルールも忘れたクソババ──」

「──私は海よりも深い心を持っているが、その直接的な暴言はいただけないな」


 気が付くと俺は直接的な暴力によって廊下の壁へと叩きつけられていた。霞んだ視界に、金色のポニーテールを揺らしたティナさんの姿が浮かぶ。


 ひび割れた壁面から剥がれてピクピクと痙攣するオレを見て、近くに居た秘書? さんが青い顔で回復魔法をかけてくれた。ふぅ……。

 一息ついたところで、師匠はにこりと魅惑の笑みで言う。


「どうせキミのことだから、放っておいたらランク戦をしないだろう? これは師匠の気の利いた助力というものだよ」

「傍迷惑なお節介とか、師匠もしっかり老婆ですね(笑)」


 か、かは……!

 オレは遠回しにありがとうの気持ちを伝えたつもりなのだが、森の魔女には難しい言い回しだったらしい。異種族間コミュニケーションとは難しいものである。

 今度の秘書さんはオレを見て、ちょっと首を傾げながら治療の手を途中で止めてしまった。なんだ。オレが悪いってのか!


「それに、レッシュくんは優秀なんだけれどね。そのせいもあって、強くあることに傾倒してしまっているんだ」


……なんか、急にギルド長らしい一面を見せ付けられたぞ。そんなこと一介のスライム候補生であるオレに言われても困るんだが……。


「ルルアちゃんと仲良くできたキミなら。なんとかできるだろう?」


 ギルド長としての職務怠慢である。オレは最後の力を振り絞って声を荒げた。師匠は倒れたオレを治療もせずに首根っこを掴んで庭へ放り投げた。

 許さない。明日は絶対にギルドには行かない。


 オレは帰ってふて寝した。



 ♦♦♦



 ずっと、勇者のことが嫌いだった。


 強くあれ。それだけが遠い両親の背中を視界に繋ぎ止めてくれた。

 だから必死に最強たる為の力を磨いた。『爆熱』とも呼ばれるようになった頃、蒼穹の悪魔は、俺の根底をぶち壊した。


 事ある毎に俺を煽り、気ままに叩きのめし、なのに、その瞳に俺が映ることはない。


「へへーん! やっぱりボクの方がつよーい!!」


 闘技場で蹲る度に、劣等感と激情が入り混じる。もはや胸の内で抑え切れぬほど、醜く膨れ上がる。

……アイツがいなければ、俺は一番に。そしてきっと、勇者にさえ選ばれ──


「クックック……勇者よ。自分の背中を気にしたことはあるか?」

「……え」


 じゅくりと、肉を貫く感触が響く。


 その瞬間、両親の背中が赤く塗り潰されたのは、なぜなのだろう。



 ♦♦♦



「世界はオレのことが大好き過ぎるらしい」


 目の前の脅威から逃げ出そうとした矢先にクソみたいな未来を突き付けてくるとか、これもう一種の悪魔だろ。

 これまで何度も見た未来視に頭痛を覚えながら、教室の突っ伏した机から起き上がる。

 

「あ~、嫌だ嫌だ嫌だ! 闘いたくなんてないっ!!」


 一体なんのために『英雄の守り人』の候補生となったのか。

 窓際席に両手両足を投げ出して喚くオレの姿は、選抜試験不合格者が血眼になって殴り掛かって来そうな醜態だった。


「君の本当の実力を発揮する時じゃないのかい?」

「オレは最下位という称号を妥当なものとして受け取っているが」


 オレとしては、寧ろシリウスこそ本当の実力を発揮する系男子だと思うけどな。


「ま、ピエロにせよ何にせよ、ランク戦を盛り上げてくれることを期待しているよ」


 追及したら手のひらをひらひらとして、教室を出て行きやがった。


 放課後となって夕陽の差し込む最下級クラスの教室に残るのは、もはやオレだけ。

 いかに最下級クラスとは言え、彼らも厳しい選抜試験を乗り越えた者たちだ。基本的に意欲は高い。オレみたいなのは見た目も中身もギルドの異物であるため、今すぐ廃棄されるべき存在である。


 さて、俺もそろそろ世紀の大虐殺ショーの会場へと、出演チケット片手に移動をしなければ。


「シアン! 頑張ってね!!」

「出たな、いつかオレを殺した魔王め」


 白に近い紫髪をふわりと揺らし、最下級クラスの扉を開いたルルアに悪態を突く。

 そもそもを辿ると、全ての元凶はコイツなのだが、当の本人は串肉とジュースで完全に観客気分だ。あまりに腹立たしい+最下位のせいで金欠なので、喰いかけの肉串を乱暴に奪い取る。


「ね、ボク以外に負けたら怒るよ?」

「お前にだって負けるつもりはないが」


 誠に不本意だが、コイツの勇者化を喰い止めるためには女神メルリア様にオレの方が優秀な力を持つと示す必要があるのだ。


「と言うかルルア、昨日言ってたレッシュとの約束ってなんだ」


 我が幼馴染はキラッキラと蒼穹の瞳を輝かせた。


「えっとね、『俺と闘え』ってレッシュくんに言われたんだけど……じゃあ、ボクを取り合ってる人同士で決着付けてもらうのが手っ取り早いかなって!!」

「オレはお前を取り合っていないんだが……」


 既にルルアには絶対責任を取らせることが確定してしまっているからな。オレはもはや争いとか、そういう次元にいない。


「え?」

「え?」


 無邪気は時に悪となることもあるのだから、たぶん、勇者と魔王も表裏一体なのだろう。知らんけど。


「言ったはずだぞ、勇者になるのはお前ではなくオレだと」

「……むふっ。シアンはボクより弱っちいけど、楽しみにしてるね!」

「まずはお前から相手してやろうか」


 などと勢いづいてしまったからには退路などなく、控室でランク戦用の戦闘服を身に付ける。

 オレの確立された戦闘スタイルに武器は必要ない。

 無手のまま師匠とお揃いの白い手袋をぐっと嵌め込み、洞窟みたいな通路を辿って決闘の場へと向かう。すごい歓声だ。なんか怖くなって来たな。帰ろっかな。


「チャレンジャーは……なんと!? 候補生最下位のシアン!! これは一方的なショーになりそうだぞ~!!」


 酷い。始まる前から勝負が決している気がしてならない。

 審判兼実況というのは選手に対して公平な存在ではなかったのか。ぐるりとオレを取り囲むように円形闘技場の観客席に横溢する誰彼を眺めつつ、憂鬱に項垂れる。


「シアン~!」


 最前列から身を乗り出して手を振ってくれる幼馴染だけが心の救いだ。その隣では、森の魔女が満足そうに頷いている。カ~! ペッペッ!! あの理不尽女王様(♂)だけは許さん。

 ガンを飛ばしてシッシと手を払うと、分かり易く青筋を立てた。


「あ、あの生意気弟子め……!!」

「し、師匠!? 今はダメ!!」


 観客席に集う誰彼(ルルアに羽交い絞めされた魔女を除き)は、序列四位レッシュくんの闘いに興味津々と言った様子だ。

 あ~、ヤダヤダ。エ~ン、エンエンエンッ! ……よし、心は落ち着いたな。


 オレは闘技場の中央でレッシュと向かい合い、静かに臨戦態勢へ移る。


「見世物になる準備はできたか?」

「世紀の逆転劇で観客を沸かせる準備なら、な」


 オレは安い言葉を売っただけなのだが、ニヤリと、レッシュは端正な顔つきを獰猛に歪めた。怖い。

 彼は貴族らしく洗練とした所作で、髪色に似た緋色の宝石を嵌めた杖を右腕に振るう。


「そうか。ならば俺は、貴様の血で観客どもを紅潮させてやるとしよう──」


 直後、無数の星屑のごとき光が、オレの四肢を爆散させた。




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