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未来視で幼馴染のことが分かるんだが、絶望しかない()  作者: うずまきしろう
未来視とかいう地雷スキルを持たされた子のお話
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第1話


 遠い昔、大陸には魔王がいた。


 魔瘴を発し、魔物を狂わせ、時に人を誑かす。かの邪悪なる存在は、世界を我が物にせんと悪逆非道の限りを尽くした。


 非力な人族の抵抗は虚しい。瞬く間に国は破れ、人が死に絶えていく。

 残された一国で身を寄せ合う人々は、みな恐怖に打ち震え──と、その時。



 一筋の白光が、暗雲の彼方から舞い降りた。



 空より現れたのは──絶世の美女。

 純白の翼に後光を射した女神メルリア様は、一人の青年へと『聖剣』を託す。


 それが、始まりの『勇者』。

 青年を中心に、人族は魔王軍へと反撃を開始する。

 その勢いはとどまることを知らず、遂には魔王をも討ち取った。


 

 以来、西の果てに魔王が出現する度に、人族にも『勇者』の祝福を授かる者が生まれた。

 勇者が魔王を破り、世の平和を保つ。

 その長い神話の時代は色褪せることなく、今も語り継がれている。

 

 故にこそ、人族は『勇者』に憧憬を抱く。そして女神メルリア様を信奉する。

 それは、魔王が出現することがなくなり、勇者もまた現れなくなった現代においても変わらない。


──アリア・ローゼット『信仰の再認識』聖都中央教会。女神歴570年──



 ♦♦♦



 ポカポカと、陽気な日差しが差し込むお昼下がり。

 オレはベッドで目を覚ますや否や、軋む額を抑え込んでゴロゴロとのた打ち回った。


「あ゛~……痛ってぇなぁ!!」


 頭痛が痛い。

 どうして生存活動を開始しただけで、こんな嫌な気持ちにならねばならないのか。

 この世は苦悶と理不尽にまみれている。呻きの呪詛をあげること暫く、オレはぼんやりとした視界で、壁掛けの暦を眺める。


 《b》女神歴352年《/b》。そう書かれた暦が、部屋に浮かんでいる。


「……タイムリープ?」


 ではない。

 しかし、先程の書物の発行年は間違っていない。そして部屋の暦も間違っていない。

 部屋の暦は現実で、先ほどの光景は俺の持つ『未来視』によって夢に見た世界線である。


「幾星霜の月日が流れても、勇者様は大人気ですよ、と」


 ようやく目の奥を貫く痛みが退いてきて、10歳児にしては背伸びした単語を零れ落す。


 せっかくの睡眠中に断片的な未来を好き勝手告げてくる未来視はクソだ。コイツのせいでオレは針山を歩くような半生を歩まされているのだから、当然の想いである。

 まぁ、紆余曲折ありつつも、10歳児のオレはなんとか平和に生きている。

 当面の目標は、この『未来を詠む力』をコントロールすることだ。それが叶った暁には、未来の技術情報を盗み見て、楽して大儲けする人生を歩むつもりで。



「シアン~! ボクが来たよっ!!」



……ウワァァァアアアアッ!!


 蒼穹の瞳が、ひょこりと部屋に躍り出た。しかしオレにとっては青い悪魔だった。


 どうやら我が家の門番たる義母(かあ)さんは、この聖域に最も踏み入れさせてはいけない奴を通過させてしまったらしい。

 玄関口へとずるずる腕を引っ張られながら、居間でオヤツの準備をしてくれている義母さんに口を尖らせる。


義母(かあ)さん。今すぐルルアを抓み出してくれ」

「あらあら。せっかくルルアちゃんが遊びに来てくれたじゃない。はい、おやつね」

「勇者ごっこしよ!!」

「嫌だが」

「シアンが魔王ね! ボクはもちろん勇者!!」 


 はぁ~~~~……未来が輝いていると妄信できるガキは結構なもんだぜ。

 オレ? オレは楽して金を稼ぐ手段を模索する(未来視の修練)ので毎日が忙しい。つまりは、じゃじゃ馬な幼馴染ちゃんに構っている暇はない。


 とにかく、嵐が過ぎ去るのを待とう。ひとまずオヤツで休息を。


「……ん?」


 オレのオヤツが乗っているはずの皿が空っぽなんだが……??


「勇者はみんなの為に頑張るから、いつもお腹減ってるの!」


 頬に菓子クズを付けた、かの邪悪なる存在は目の前に居た。

 人族と大陸の平和の為に、必ずやこの巨悪を打ちのめさねばならぬ。

 俺は固い決心と共に、玄関に立て掛けた木刀を握り込んだ。


「よし。外に出ろ。オレが世界を暗雲に包んでやる」

「わーいっ!!」


 一体なにがそんなに嬉しいのやら、ルルアは木刀を握った両手を投げ出して我が家を出ていく。

 やれやれ。とある未来で『魔王』と化したオレを舐めているのだろうか。


 そもそも、普段からあんまり自由にさせているから、オレの幼馴染はあぁにまで増長しているのだ。色々あって汗水を垂らすことが大嫌いなひねくれ人間となってしまったオレだが、偶にはルルアの両親に代わって、幼馴染を厳しく躾けてやるとしよう。


「シアンよわ~い!!」

「……クソがッ!!」


 気が付くとオレは大地に頬擦りしていた。

 傍若無人な魔王様は、ぺしぺしと木刀で死体打ちを続けている。


 忘れていた。オレは『こんな力』を持っているせいか、魔法にも武才にも嫌われたカスだった。そしてルルアは魔法にも武才にも愛された神だった。

 未来視によって優秀な誰彼の光景を叩きつけてくるだけに飽き足らず、現実でもオレの弱者っぷりを突き付けてくる世界はよほどオレのことが好きなのだろう。

 

「おや、こんなところに打ち上げられた魚が。性懲りもなくやられているね」

「出たな、性別不詳の枯れ木め」


 強者が弱者を痛めつけるという勇者役にあるまじき犯行現場を、ふらりと魔女が散歩する。

 少し前に見た70年後の未来で、その金髪ロングで美形な面立ちは少しも変わっていなかった。時折村を訪れてはルルアに魔術やら武術を教え込んで小さな村の魔王を増長させる存在は、確実に魔女だろう。


 だが性別は♂だ。オレは未来視で垣間見てしまった。そしてオレの情緒は破壊された。

 パリッとした校務服はスタイリッシュな長身をこれでもかと強調しており、その胸元で金に輝くバッチも魔女の持つ社会的な格式の高さを伺わせてくれるものである。ものではあるのだが……。


「ふむ。それほど元気があるなら、第二回戦も続行できそうだな」

「なっ!? やめろ!! 児童虐待する気か!! 相手は邪悪な魔王だぞ!?!?」

「先に老人を労わらなかったのはキミの方だろう」

「ボクが勇者でシアンが魔王役なの! 嘘吐いちゃメッ!!」


 不思議と温かな魔力に包まれて完全回復してしまったオレは、再び勇者様にぶちのめされた。

 か弱き少年が虐められる光景を見て、年齢性別すべて不詳の魔女は高らかな笑い声を響かせる。この人本当に大人なのだろうか。本気で心配だ。


 そんな乱暴者だから、ルルアはオレ以外に構ってくれる友達が居ないんだぞ。


 寝ている時にしか発動できない『未来視』がチャンバラごっこに役立つはずもなく、大地に倒れて家へと送還されるまでの間、ご機嫌なルルアに刺さなかったオレは非常に大人だった。


「うむ。よく寝てよく戦う子は立派に育つ!!」

 

 陰湿な美女ババア(♂)と善悪の分別が付かないガキ大将による壮絶なイジメを唯一喰い止めてくれるはずの義父(とう)さんは、傷だらけのオレがベッドに倒れた様を見て、実に満足そうに頷いた。

 義父(とう)さんは脳筋だった。


 それは、少しの苦悩と幸せに溢れた、満ち足りた生活だった。






 その晩、俺は夢に『未来』を見た。


 舞台は崩れつつある闇の城。そしてそこにいるのは、当代勇者。

 その見てくれはいつの時代もそう変わらぬもので、輝かしい白銀の軽鎧を身に付け、その右手に聖なる直剣を握っている。


 他の時代と違うのは──その、結末。

 肩先を揺れる限りなく白に近い薄紫の髪は、べたりと、暗赤色に濡れていた。


「く……クック……最後の最後に立っていたのは、俺だったな……!!」


 見上げる先には、深手を負って荒く呼気を繰り返せども、確かに王の間を二本足で立つ悪魔の姿。

 当代の魔王は豪鬼のような瞳に──心臓に風穴を開けた、勇者を映す。



 光を失った勇者の瞳は、蒼穹の色をしていた。





 


 次回は明日。

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