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その日の夜、俺は残っている仕事や上司の視線を完全に無視して、定時きっかりに会社を飛び出した。
「すみません、急用で……!」とだけ言い残し、タイムカードを叩く。
理由なんて何だっていい。
とにかく、今は――
「……俺のスキルに、何が起きてるのか確かめたい」
久しぶりに走ったせいで息が切れる。
階段を駆け上がり、1Kの狭いアパートに滑り込んだ。
すぐにパソコンの電源を入れ、会社の端末で見た“ログ画面”を思い出しながら、いくつかの操作を試す。
しかし、当然そんなログビューワーなんてものはこのPCには入っていない。
いや、そもそも――あれは俺のスキルの一部だったのか?
すると、画面にポップアップが現れた。
《スキル:未鑑定》がアクティブ状態に移行しました。
仮構造モードへ切り替えますか?
【はい】/【いいえ】
出た……。これだ。
昼間に見た“あれ”と同じようなウィンドウ。
震える手でマウスを握りしめ、「はい」をクリックする。
次の瞬間――モニターに、スキル構造のような図が広がった。
まるで、プログラムの設計図みたいだ。
「……なんなんだ、これ……俺、本当にスキル持ってたのか?」
画面右下にはこう表示されている。
《分類:構造修正型スキル》
アクセス権限:Level 1
意味はわからない。でも、一つだけはっきりした。
“未鑑定”なんかじゃない。
このスキルは、確実に“何か”を持っている。
俺にはまだ、その全容がわからないけど――
「少なくとも、“俺には何もない”って思ってた、あの頃の俺は……間違ってたんだな」
ノートPCの光が、狭い部屋の中で、静かにまたたいていた。