開始9
ネディネーネと会話をするようになってから、リコリスはなんとなく彼女のことが分かるようになってきた。
「(ネディネーネ君……彼女は、コミュニケーション能力に難がある)」
話を聞くに、彼女は孤児のエルフかつ物心ついた頃から誰もいない森の中で1人で暮らしていたそうだ。同胞からは宿木のネディネーネと呼ばれていたとか。
まあとにかく。他者とコミュニケーションをとる機会が著しく低く、社会性を培えなかったのだろう。1人で居ることに何ら問題もないようだし、警戒心も強い。仲間を作るには相当時間が必要だろう。
最悪返事だけでもできれば良いだろうと結論付け、リコリスは思考を放棄した。特に錬金部署には変人も多いし、やがてどうにかなるだろう。
「(……どうにもならなかったらどうしようか)」
少なくとも組織に所属する者達には多少慣れて欲しいが、難しいのなら社会性をゆっくり学べば良いだろう。無論、講師はリコリス自身になるだろうが。
「(彼女のために、予定を空けておく必要があるか……)」
まあネディネーネと話をしている現状と変わらないだろうが。
「ちょっとお前、何ぼーっとしてるのよ」
思案していると、ネディネーネから声をかけられた。場所はカウンセリングルーム。毎週決まった時間に、話をする時間を設けているのだ。会話の他にも、ネディネーネが持ち寄った本を読み聞かせる事もある。
「ああ、君の事を考えていてね」
「私の事? ふふん、私の事が気になって仕方がないんでしょう!」
素直に答えると、ドヤ顔でネディネーネが胸を逸らした。
「そうだね。君との予定を入れるために、仕事の調整をしなくてはならないからね。それにハイエルフなんてあまり見ないし、興味はある。シャシュティ(長寿のダークエルフ)も、気になるよ」
「そういうのじゃないわよ!」
「じゃあ他に何があるというのだね」
「そ、それは……何でも良いじゃない!」
「そうかい? (なぜか機嫌が悪くなってしまった)」
拗ねたネディネーネに、リコリスは首を傾げる。
「お前ってあんまり怒らないわね」
「うん? 君に怒ってもしょうがないだろう。君は君なりに頑張っているのだから、どこに怒る必要があるのかね。何度注意しても聞かなければ、流石に怒るけれど」
「ふーん?」
「怒らせようと思っている?」
「別に、思ってないわ。私はちゃんとできる子だもの!」
「そうだね、ちゃんとできる子だよ(コミュニケーション以外は)」
「何か含みあるわね!?」