開始8
錬金部署室を出、そのまま外に出る。
「どこに行くの」
「カウンセリングルームだよ。君とゆっくり話ができるからね」
「お前、いつもどこにいるのよ」
「写本部署室……別館の一階だよ」
「別館? 寮の部屋があるところね」
「そうだね、君が過ごすカルネ―ル寮の下だ。部屋の住み心地はどうだい? 何か不満があれば、ある程度の改造は許されているはずだけれど」
「植物が足りないわ! それに、寝る場所はなんだか少し硬いし」
「なるほど。欲しい植物があれば、注文や購入はできると思うが……」
「人間が付けた植物の名前なんて、私が知っている訳がないでしょう?」
言われて、リコリスは納得した。リコリスが知っている植物の名称は大抵、人間が名付けたものだからだ。
「そうか、君はあまり人間とかかわっていないのだものね。……そうだな、人間が付けた植物の名前がわかる本、図鑑なども持っていこうか」
「図鑑?」
「写真や絵、文章で対象の特徴を表した本だよ。見た方が早い」
と言うことで、まずは図書館へ向かった。「ここでは静かにね」とネディネーネに声を掛け、リコリスは案内する。図書館では本を選ぶ構成員が数名。
「植物の分類はこのあたりだ。何か、興味が向いた本を持っていくと良い」
「これ、なんて書いてあるの」
どうやら、早速本に興味を向けた様子だった。一冊本を抜き出し、リコリスに見せる。
「これは……『魔女の薬草レシピ』。文字についても教える必要があるかな」
「お前が読みなさいよ。私がわざわざ覚える必要はないわ」
リコリスが思案するも、ネディネーネはぷい、と顔をそむけた。まあ必要になったら何かアクションをするだろう、とリコリスは考える。他の怪異も特に文字に苦労している様子は見ていないので、どうにでもなるのだ。
「読み聞かせか。まあ、いいけれど。僕は署長としての仕事と講師の仕事もやっているから、スケジュール調整をしなければならないか。……ところで、気になる本は集めたかね」
「今日はこのくらいでいいわ。カウンセリングルームってのはどこにあるの」
「ここの少し先だよ。本を借りる手続きをするから、少し待ちたまえ」
ネディネーネが選んだ本をカウンターへ持って行き、手続きをする。そこで軽く司書をしている構成員と話をして、ネディネーネの元へ戻ってきた。
「何を話していたの」
「予定の調整だよ。少なくとも今日は君と過ごせるように手配した」
そしてカウンセリングルームに向かう。