変化9
医務室に着く。
「思ったより、人間って軽いのね」
言いながら、ネディネーネはリコリスを寝台に乗せた。
「それは僕の四肢がなくなっていて、内臓も減ってるからだね」
至極冷静にリコリスは答える。魔法を使って病人服に着替えさせ、皮膚に付着した血液を拭われた。
「なんで腕や脚を無くしたのよ」
「尋常でないウィザリングに掴まれたものでね。命の危険を感じたから、先に切り落とした」
そう告げると、ネディネーネは信じられない、と言いたげな顔をする。
「私を森から連れ出したくせに、私を置いて居なくならないでよ!」
「居なくなろうとしたのではなくてだね。効率性と確実性を考えた結果、僕がこうなった訳で」
魔法薬で回復する前提で、行動した。だから、魔法連合に戻るつもりはあったのだ。そう、リコリスは言い訳をする。
「うるさいわよ! お前、連合で偉い人なんでしょう? 群れの頭が真っ先に居なくなるなんて、あり得ないわ」
「そうは言っても、僕の代わりはいくらでもいるから身分とかはどうでも良いね。それに僕は死ぬつもりも毛頭もないよ」
「説得力がないわ。今だって、体が減って疲れてるじゃないの」
「僕は、魔導書が読みたいから死なない。死ぬ時は魔導書を読んだ結果だね」
「物騒なこと言うんじゃないわよ! ……ただでさえ、ちっぽけな命なのに」
「そうだね……気を付けるよ。少しくらいは」
彼女と接する時間を延ばすならもう少し気を付けた方が良いか、とリコリスは思いとどまる。
「そうだ。君の森を荒らしたウィザリングを、討伐したよ」
「そう」
「君の生命魔法に溢れた森がよほど美味しかったのか、かなり凶暴化していた」
「あっそう。でもそいつを倒したからと言って、私の森が帰ってくることはないわ」
「そうだね」
「……無事で、良かったわ」
「ああ、うん。すまないね。……だが、魔法連合ではよくあることだ。慣れてくれた方が良い」
「……そうなの」
「その方が、これから君が任せられる仕事などもやりやすくなると思うよ」
「そうかしら」
少しネディネーネは青ざめる。意外と大変な場所だと思ったのかもしれない。
「そろそろ、治療を始めてくれないかい。まずは造血を。……実のところ、貧血でかなりしんどいんだ。視界も真っ白で君が見えない」
「それ早く言いなさいよね!」
まずネディネーネは造血と内臓の修復を行い、次いで四肢を修復していく。体力も減っているので、体力を回復させる魔法薬も併用した。




