変化7
「僕の近くに寄ったな?」
真っ直ぐ見据え、リコリスは口に咥えた魔道具を使い至近距離で炎の元素魔法を放つ。
高温の火柱に焼かれ、ウィザリングの頭が焼失した。これはフォルトゥナに教えてもらったもので、魔道具で魔法を増幅した火炎放射だ。
首のないウィザリングはまだ動いていたが、じき止まるだろう。ぐらりとバランス崩し、リコリスの上に倒れた。
「火柱のお陰であんたの居場所が判りました……って、なんだこの状況!?」
直後クレハが現れ、リコリスの状況に表情を歪める。
「丁度良かった。このウィザリングを、僕の上から退けてくれないかね」
「マジで怪我してんじゃあないですか。俺の仕事の評価落ちたら、どう責任取ってくれるんですか」
ウィザリングを退かしながら、クレハは悪態を吐いた。
「大丈夫だよ。僕がそう命じたのだと言えば、考慮されるはずさ」
「……これでも心配してんですよ。俺」
その様子に、どうやら素直に言うのが難しい性格らしいとリコリスは理解する。
「そうかい、ありがとう。じゃあ、色々集められたし、魔法連合に帰ろうか。ついでに、それも持って戻ろう」
焼け爛れたウィザリングだったものを(腕がないので)顎で指す。
「……これもか」
クレハは面倒そうに息を吐き、使役生物を呼び出す。大きな黒い狐だ。取り出した黒いジッパーの袋にウィザリングを詰め、狐に括りつける。
「あんたは、飽くまでも御自身が署長であるって言う自覚ぐらいは持ったらどうですかね」
言いつつクレハはリコリスを背負い、ずり落ちないよう紐で固定した。
「君がいてくれて助かったよ。僕はただの写本部署の署長だからね。それに、怪異を退治した後の報告書の書き方など分からないものだから」
「あんたその怪我でよく喋るな。もう黙っといてくださいって。失血量やばいんですから」
魔法で止血したが、ウィザリングの攻撃で失った血液の量は多い。帰ったら四肢の修復と造血をしなければ、とリコリスは冷静に思考する。
「帰ったら、医務室での治療や休息を申請しないといけないね。あとは修復に必要な魔法薬の購入もだ。申し訳ないけれど、それも手伝ってくれると助かる」
「はいはい、分かりましたから。……って、これは静かな方がやばいんだったか? 途中で気絶とか失命とか、しないでくださいよ」
「無論だとも。すでに魔法薬で体力回復と生命維持周辺の対応はしている。1日以内に魔法連合に着けば問題はないよ」
「ほんと、準備いいなあんた」




