開始4
「君は、海を渡ったことはあるかい?」
軽くプロフィールを聞いて記録した後、リコリスはネディネーネに問うた。
「海?」
「大きな水溜まりのことだよ、魚とか生物が沢山住んでいるが。川の終わりのことさ」
首を傾げるネディネーネに、リコリスは大雑把に答える。川の跡があったので、魚くらいは知っているだろうと考えた。
「見たことないわね。あるの? そんなものが」
「あるよ。君に嘘を言ったってしょうがないだろう。魔法連合の本部へ行くには、海を渡る必要があるんだ」
「ふーん、見てみたいわ。連れていきなさい、その海とやらに!」
「良いとも。どうせ道中だし、大きな面倒もない」
ネディネーネを本部に連れて行くついでに海を見せれば良いだろう、と結論付けリコリスは頷く。
「それと、テレポーテーションは使えるかな?」
「移動の魔法のこと? つ、使えないわよ……」
「分かった。飛行魔法は?」
「飛ぶのは風の魔法を使うわ」
「そうか。なら、テレポーテーションでは僕が連れて行く事になるね。飛行する時は一緒に飛んでもらうよ」
「い、一緒? ふんっ! まあ、飛ぶくらいは造作もないわ」
「助かるよ。テレポーテーションは一瞬だからあまり魔力を消費しないが、飛行魔法は飛ぶ時間と消費が大体一緒だからね。二人運ぶのは面倒なんだ」
軽く会話をし、リコリスは記録媒体と魔道具をしまった。
「では、手を出してくれるかい?」
「手? なんでよ」
言いつつ、ネディネーネは手を出す。
「失礼」
「きゃっ?!」
その手をリコリスが握ると、彼女は飛び上がって手を引っ込めた。
「……ただ手を握っただけだろう? 何を驚くことが」
「なんで握るのよ」
「テレポーテーションで運ぶためには必要なんだ。すまなかったね、説明を忘れていた」
「そうよ、はじめから言いなさいよね!」
不満顔をしながらも理由に納得してくれたのか、ネディネーネはそっと手を出してくれる。それを優しく握ってやり、手を引っ込めない事に安堵した。
警戒心が強いようだ、とリコリスは内心で思う。長い間一人で過ごしていたのだろう。特にハイエルフは群れを離れ、1人で森を守って暮らすのだから。
「今からどこに行くの?」
「まずは海かな、君の希望通りに。港に連れて行くのは恐らく難しいから、砂浜になるけれど」
「港とか砂浜とか、よく分からないのだけれど?」
「地面がより自然な方が砂浜だよ。言葉通りに砂の浜。地面が砂で覆われ、海と接している場所だ」