転換9
外はすっかり暗くなり、夜になっていた。リコリスとネディネーネは魔法連合の建物に戻ってきた。
「街って疲れるわね」
うーん、とネディネーネは伸びをする。やはり、ハイエルフには人間社会は窮屈だっただろうか、とリコリスは思考した。
「次は森にでも行けたらいいね、材料採取になるだろうけれど」
「別に、次も街でいいわよ。お前と一緒ならね」
そう、ネディネーネは告げた。
「この眼鏡と耳のやつ、首のやつはどうしたらいいの?」
「ああ、その魔道具は僕が回収しておこう。そうだ、僕が君に渡した懐中時計も返してくれないかな。仕事道具の一つなのだよ」
「ふーん。ほら、返すわよ」
「ありがとう」
ネディネーネが身に付けていた魔道具は返却された。それをもって錬金部署の方へリコリスは歩くと、ネディネーネもそれに着いてきた。
「おや、帰ってきたね。すっかり朝帰りするものかと思っていたけど」
錬金部署の方に着くと、フォルトゥナが居る。
「するわけがないだろう。宿泊するには、まだ彼女は人間社会に慣れていない」
「そう言うもんかね?」
話しつつ、リコリスは魔道具達をフォルトゥナに渡した。
「そう言うものだろう。ほら、ネディネーネ君。入浴でもして寝ると良い。疲れただろう」
「そうさせてもらうわ。でも、その前に」
そう言い、ネディネーネは身軽になったリコリスに抱き着く。そして、頬にキスをした。
「これでいいわ。また今度のお休みにね」
そう告げ、ネディネーネは公衆浴場の方へ向かっていく。
「わーお、熱烈」
「彼女にとってはただの挨拶だよ」
口笛を吹くフォルトゥナに、至極冷静にリコリスは返した。これはそう学習したから、彼女がやっているだけの行動だ。
「そうかね? で。どうだった?」
首を傾け、フォルトゥナは問いかける。
「特に大きな問題もなく。順調だったよ。魔法の使えない人間を不要に見下すこともなく、嫌がることもなく。人間社会や科学技術に忌避の感情を示すことも無かった。ただ、人間社会の科学技術は最近でかなり発展してきているから、それに慣らすなら何度か出掛ける必要があるかな」
問い掛けにリコリスは今日の様子の評価を返した。
「ふぅん。じゃあ、魔道具の使い心地はどんな感じだった?」
「それはネディネーネ君に直接聞いたほうが早いだろうに。……そうだな、不便をしているようには見えなかったよ。今のところは、問題ないんじゃないかな? 現代の人間社会で浮いた姿形でもないし」




