転換7
リコリスに連れられて、街の細い路地に入る。人通りが少なくなり、少し暗くなった。いわゆる、裏路地というものだ。少し心細くなったのか、ぎゅ、とネディネーネがリコリスの腕を掴む。
「お前の、おすすめのお店ってどこなの?」
「このまま、着いてきてくれたら分かるとも」
一つの店の前で立ち止まった。外観はただの店のように見えるが、窓からは積まれた書籍や棚に詰まった書籍が見える。
「ここは?」
「古本屋だ。……実は、魔導書も扱う特殊な店だ。無論、魔導書と言っても危険なものはない。危険な本の類は魔法連合の方へ届くからね」
リコリスがネディネーネを連れてきた場所は少し特殊で、世界中から集まる古本の魔導書を魔法連合に送っている書店の一つだ。普通の人間は入れないように、魔法が掛かっているそうだ。だから、この古本屋に居るのは魔法使いがほとんどだ。
「この店の内部なら、好きに見て回ると良い。分類については本棚にも書かれているが、店長や店員に訊いたほうが早いだろう。集合は30分後でいいかな? 君にこの懐中時計を渡しておく。これの、この長い針がこの位置に来た時が30分だ。心配だったら、僕が迎えに行くからあまり時間を気にしなくてもいい。ただ、この懐中時計は無くさないようにね」
そう言い、リコリスはネディネーネに懐中時計を渡す。これは魔道具でもある。そして、自身の所持物なので、居場所が分かるように魔法もかけてあるのだ。だから、この懐中時計さえ持っていれば、リコリスはネディネーネの居場所が分かる。
二人は一旦分かれる。
「(……さて。新しい魔導書は入っていたかな)」
軽く思考し、懐からペンデュラム(重りの付いた紐)を取り出す。これは、欲しいものや必要なものを見つけやすくする魔道具だ。ゆらゆらと揺れ僅かに動いた。
「……いくつかありそうだな」
呟きつつ、リコリスは店内を歩き始める。そうして、いくつかの魔導書を入手した。子供向けのおまじないのようなものや、民間療法、魔法使い向けの本格的なものなどと、多種多様だ。
「……そろそろ、時間かな」
時計を確認するともうじき30分が過ぎる頃だった。今回は目的の魔導書があったので早く済んだが、目的なく歩いていたらもう少し時間がかかっただろう。本との出会いは時間を忘れてしまいがちだからだ。
ネディネーネの元に向かうと、古い魔導書を購入する彼女が居た。
「何かいいものは見つかったかね」
「まあまね。役に立ちそうな本は見つけたわ」




