開始3
「ところで君、名前は」
記録媒体に記録を付けながら、ハイエルフに問いかける。
「……ネディネーネよ。お前の名前は?」
ハイエルフ……ネディネーネは、拗ねたように返事をした。
「そうか。僕はリコリス・リリーだ。見ての通り、魔法使いだ」
「分かっていたけれど、エルフじゃないのね。魔法使い、魔法が使える人間ね。……でも、名前は違うでしょう。本当の名前を言いなさいよ」
リコリスが自己紹介をすると、やや表情をしかめてネディネーネが指摘する。
「……リコリス・ラジアータ・リリーだ。よく分かったね、僕の名前が違うと」
真名なのであまり言いたくなかったのだが、看破されたなら仕方ないだろうと名乗る。流石はハイエルフ、なのだろうか。
「不自然な感じがしたもの。ふーん。リコリスって呼んであげるわ」
「そうかい。僕としてはリリーの方が助かるのだが……まあ、ラジアータでないなら、好きに呼んでもらって構わないよ」
「ねぇ、リコリス」
「何かな」
「お前、ただの人間じゃないでしょ。時々森にくる人間達と違うもの」
「……そうだね。僕はチェンジリング。妖精に育てられた人間だ」
「ふーん。死の気配がするから、そういう妖精ね。ヘルハウンドかしら。珍しいわね」
「まあね。ところで、君を魔法連合に連れていきたいのだけれど、いいかな」
本来、怪異を保護するのは修道部署の役割だ。だが、修道部署の者がくるのを待つよりはリコリスが直接魔法連合に連れて行く方が効率的だろうと考えた。
「……魔法連合って、どんなところよ」
「少なくとも、ウィザリングに食い荒らされた森よりは住みやすい所のはずだ。食い荒らされる前の森とは住み心地は違うと思うがね」
「ふーん……せっかくだから、ついて行ってあげるわ」
『この場所に居たい』とごねられたらどうしようかと思っていたが、案外素直に付いてくる様子だった。これ以上、荒らされた森を見たくなかったのだろう。
「ついでに、君のプロフィールを聞いておきたいのだけれど……」
「は? 何よ。これ以上私のこと聞いたって、何も出ないわよ!」
「それはどうかな。魔道具があるから、必要事項を埋めさせてもらうよ」
「お前ばっかり私の情報を知るなんてずるいわよ! お前のことも教えなさいよね!」
「ええと。まあ、構わないが……聞いても、面白くはないと思うよ?」
「そんなの、聞いてみないと分からないでしょう! とにかく、教えなさい」
「……分かったよ、教えるから」