拒絶8
「またね、リコリス!」
お別れの挨拶をして、ネディネーネはリコリスにハグをする。すっかり慣れてしまったのか、リコリスがお別れのハグを渋る様子はない。
「(……えい!)」
そこで、今回はリコリスの頬に口付けた。
すると一瞬、リコリスが身体をこわばらせたのを感じた。きっと、驚いたのだろう。そう思うとネディネーネは、ふふん、と、どこか満足した感情になった。
「ネディネーネ君、これは……」
ハグしたままであったが、リコリスはネディネーネに問う。やっぱり聞かれた、とネディネーネは用意していた言葉を告げた。
「キスよ! 挨拶の一種なのでしょう? この間見たドラマとかでもやっていたわ! 母親と子供がね!」
そう、自信たっぷりに返す。すると、
「あ、ああ。……母と、子か。……そうだね、そういう行動もある」
そう、リコリスは頷いた。
「(……あら? なんだか反応が微妙になったわ)」
どうしてだろう、と思う間にリコリスから引き剥がされる。
「ほら、ハグはおしまいだ。そろそろ、本当に帰らねばならないからね」
そう言い、リコリスはネディネーネの目を見つめた。どうやら、最近はまたリコリスは視線を合わせてくれるようになったようだ。その事実に、ネディネーネは満足する。
「分かっているわ。お前にはするべき仕事っていうものがあるのだものね。さっさと行ってしまいなさいよ」
そうやってリコリスを追い払うと、「じゃあ、また今度の休みにね」と彼は微笑んだ。
彼が居なくなるのを、しばらく目で追っていた。
「(……ふん。また今度の休み……ね)」
彼の告げる『今度の休み』とは一体何時なのだろう、と思うことがある。
ネディネーネの上司であり錬金部署の署長であるフォルトゥナは、割と定期的に休みを取っている。だけれど、写本部署の署長であるリコリスは定期的な休みというものはとっていないように感じられるのだ。
聞けば、「急に仕事が入った」だの「休みを前借りした」だのと彼は言う。正直にいうと、定期的に休みを取ってくれた方がネディネーネもリコリスの休みを把握しやすいのだが。
リコリスに、ネディネーネ自身と会っていない休日についてきいたことがある。その時には、彼は「情報収集をしている」とか「本や魔導書を読んでいる」と答えた。
読書はいいとして、情報収集は立派な仕事なのではないのか。
ともかく、ネディネーネは現状のリコリスの休みの取り方に不満を持っているのだ。持っても仕方ない話なのだが。




