拒絶7
「来たわね、リコリス!」
彼が現れたのを確認したら、すぐに抱き付く。これは『ハグ』とか言って、人間のする挨拶のうちの一つ。そうでない間柄でも、親しい間柄でも行える行動だ。
そう、リコリスから聞いた。彼から告げた通りに、邪魔でないタイミングで行う。今日初めて会った時、別れる時などに。
すると、いつも彼は少し困ったように笑うのだ。
「(……嫌がってるわけじゃない、のよね)」
すりすり、と頬ずりをするといつものように林檎の実を模した香水の匂いがする。その香りがすると、なぜかどきりと鼓動が不思議な動きをした。
「(これ、何か入ってるんじゃないかしら……)」
そう思いつつもたっぷり抱き付き、頬ずりをしてリコリス本人から「そろそろ、離れたらどうだい?」と問われるまで、くっつく。
「お前が挨拶だって言ったのでしょう?」
そうネディーネーネが言えば、
「君だって、他の構成員達にこんなにくっ付かないだろうに」
とリコリスが指摘する。それはそう、なのだが。
「別にいいじゃないの。お前が『邪魔でないタイミングで』って言ったのだから、邪魔じゃない限りはハグしていいってことでしょう?」
ネディネーネが答えれば、「そう解釈したのだねぇ」とリコリスが苦笑する。だけれど、ネディネーネはこの行動を変えるつもりはなかった。
そうでなければ、リコリスに物理的にくっつくタイミングがなくなってしまう。
「(物語の恋人達は、結構気軽に抱き合ったりキスしたりしているのに)」
無論、ネディネーネはリコリスの恋人ではない。彼にはっきりと言われた。だから、唇同士でのキスはしない。
「(そう言えば。この間見たドラマとかでは、人間の親子がハグとキスをしていたわ)」
キスの位置は頬や額だったけれど。
つまり、ハグの挨拶のついでにキスもできる……のだろうか。そう考えると、より接触する時間が作れるかもしれない。
「君は、この手の繋ぎ方が好きなんだね」
本を読んでもらうタイミングでは、手を恋人繋ぎにする。そうして腕ごと密着して、リコリスの肩に頭を傾けた。
「お前が、2人きりの時はやってもいい、って言ったのだもの」
そう主張すれば、彼は「そうだね、僕が言ったね」と少しため息を吐く。
このため息の正体は何だろう、と思うことがある。人間がため息を吐くタイミングは、がっかりした時や呆れた時が多いと聞いた。
手を離そうとしたり、拒否したりしていない。つまり嫌がってはいないのだから、まあいいか。




