拒絶6
ネディネーネは、リコリスが構ってくれない間などに図書館へ向かい恋愛ジャンルの本をいくつか目を通した。読めない本は翻訳用の道具なども使ってみて、読んだ。
人間同士の恋愛に興味を持った、というよりは『リコリスの気を引くには、どうしたらいいのか』と言う情報集めだった。人間同士の恋愛など、正直に言うと興味はない。物語は面白いが、それだけである。
どうしてさっさと告白しないのだとか、主人公たちの邪魔するやつは一体何のつもりだと思う事はあるがそれが物語の演出であることは理解している。
「(物語を読むだけでは、人間の気持ちとかよく分からないわね……)」
分かるのは、登場人物の気持ちだけ。それらが分かったからと言って、リコリスの気持ちがネディネーネに分かるわけではないのだ。
「(物語では『人間の男など単純』とか書かれていたくせに、あんまり単純じゃないわよ……)」
書物に文句を言ったって、しょうがない話ではある。
そもそも、書物に載っている人間の生態は100年程度と魔法使い達よりもさらに短い命を基準にした話がほとんどだ。
リコリスはまだ90年ほどしか生きていないらしいが、魔法使いでない人間と比べても多少は長生きをしている。その上に成人するまでは妖精に育てられていたようなので、ただの人間の書物の内容がほとんど通用しないのも当然だろう。
「(そういえば、あの焦げ臭い人間は『行動心理学』がどうとか、言っていたわよね……それって何なのかしら?)」
ふと疑問を覚えたので、それに関連する書物にも目を通してみることにした。
行動心理学とは、人間の行動を理解し、予測し、そしてそれをコントロールすることを目指す学問分野の事らしい。
「(……よく、分からないわ)」
人の行動から感情を読み取る、逆に行動で心理を動かす……のだろうか。社会行動をほとんど行っていなかったネディネーネにとって、心理戦のような難しい駆け引きなどとは無縁だ。
「(とにかく、人間はくっついているとその相手を好ましく思うってことだけは分かったわ)」
本当に、それだけである。
それ以外の余計な心理学的なやつは一旦捨てた。覚えたとしても、一朝一夕でネディネーネに使いこなせることでもない。
引っ付くのが恥ずかしいなどと、恥など忍んでいる暇はない。あの男は、必要があればなんだって切り捨てる人間なのだ。だから、切り捨てられないように先に行動をしなければならない。そう、ネディネーネは考えたのだった。




