拒絶4
「これって何?」
文章を指してネディネーネが問うと
「これかい? これは……」
と、リコリスが丁寧に答えてくれる。古代のアイテムから現代の物品や建物、慣習や慣用句の意味など実に丁寧だった。100年も生きていない人間の魔法使いなのに、良く知っているなと感心する。
「この、恋人繋ぎってやつは?」
仲良くなり始めた者同士が良く行う行動の一つだ、とネディネーネは理解している。ただ、それがどんなものなのかはよく分からなかったのだ。
「……実際に、やってみた方が早い。手を出したまえ」
と、リコリスが手を差し出した。
「こう?」
そっと伸ばしたネディネーネの手を、すかさずリコリスが握る。だが、それはテレポーテーションを行う前に手を繋いだ方法とは少し異なるようだった。
する、と指の間に絡まり始めた彼の指に、ネディネーネは思わず手を引っ込めようとする。
「君が言ったのだろう、『恋人繋ぎについて教えて欲しい』と」
だがリコリスは真剣な表情のまま、手を放してくれない。更にぎゅ、と握られて手のひら同士が触れあう。
「……これが恋人繋ぎ。ちなみに家族や同性の友人同士でやる人間もいるから、これをやったからと言って恋人であるとかは関係はない」
「ふ、ふーん」
「分かったかい?」とリコリスは繋いだ手を見やすいように顔の近くの高さにまで上げた。
こうも密着していると、リコリスの少し冷たい手の体温を感じる。それに、手の固さも違うとネディネーネは自覚した。よく見ると手の形も違う。
リコリスの方が手は大きいし、筋張っていて指も長い。自分の手とかなり違うようだ。その事実に、なぜか心臓が一瞬だけ不審な動きをした……気がした。
「……ただ。これはかなり親しい相手にしかしないような繋ぎ方だから、特別な相手以外にはあまりしないようにね」
そして、するりと手が離された。そのことに不思議な残念に思う感情を、ネディネーネは覚える。
「じゃあ、お前とならこの繋ぎ方はしていいのよね?」
そうネディネーネが問うと、リコリスは一瞬固まった。だがすぐに
「そうだね、そうなるか。……連合内では周囲に誰もいない二人きりの時なら、しても良いとも」
と、にこやかに微笑み答える。許可は貰ったので、二人きりならこの恋人繋ぎはリコリスとしていいらしい。それにネディネーネは満足する。つまり今ならできるのだと判断し、リコリスと手を絡ませた。すると彼は「その繋ぎが気に入ったのかね」と困ったように笑う。




