拒絶3
「……恋愛ジャンルかい?」
一緒に逢う日にその本を持ってくると、リコリスにけげんな表情をされた。それもそうだろう。今までは植物の本がほとんどだったのだから。彼の様子に一瞬、羞恥の感情が湧いたがそれをこらえて本を差し出す。
「なんか、人間世界でよくある分類だって聞いたわ。演劇や映画とやらも恋愛ジャンルが多いんでしょう?」
「……いや、あながち間違いではないが。そう来たか」
「何よ」
くすくすと笑うリコリスに、ネディネーネは首を傾げる。勝手に何かに納得されたような心地だ。
「物語なら、冒険譚とか童話から入るものだと思っていたからね。そうか、恋愛ジャンルか」
一瞬だけ、彼の表情が抜けた。真剣に考えている時によく、彼はそんな顔をする。急にやられると少し怖い。
「童話よりは難しい単語や、人間特有の行動もあるから。分からなければ、僕に聞くと良い。出来得る限りは答えてあげよう」
にこ、とリコリスは笑顔を見せた。何かを企んでいそうだ、とネディネーネは直感したがフォルトゥナの言う通りに、リコリスは分からない所は教えてくれるようだ。
「いつか、出かける許可が下りるようになった時に、一緒に行ってみるかい? 演劇を見に行くとか。映画やドラマは談話室で見られるけれど、演劇は舞台を見に行った方が面白いよ」
「そ、そんなことできるの?」
「許可が下りれば、の話だ。魔法連合は基本的に怪異や魔法使いとの戦闘や情報戦とかやっているから、やっている暇はあまりないだろうね」
一緒に街に出かける、と言う話を聞きネディネーネは一緒に海を見に行った時を思い出した。その時はまだ、森を失ったショックを引きずっていたのだ。今なら、もう少し楽しめただろうか。
きっとリコリスは海についても詳しいだろうから、いろいろ気になったことを聞けば教えてくれるはずだと確信めいたものがあった。
「街以外は、どうなのよ」
「そうだな……材料採取や調査の目的でなら森や山、海とかに行けると思うよ。ちゃんと、仕事と言う目的があるのだから、遊んでいる暇はそんなにないと思うけれど」
「ふーん」
ネディネーネは怪異なので大っぴらに街を歩くのは難しいかもしれないが、森や山など自然の多い場所へ行くのはできるかもしれない。
「無論、僕と君では立場も部署も異なるから、一緒に出掛けられる保証はできかねないよ。仕事を割り振るのは人事部署の仕事だからね」
「なんで、そんなこと言うのよ」
「しかし、事実だろう」




