拒絶2
「え、『気になる男がいる』? おまけにそれが人間だと。ふぅん」
焦げ臭いのを我慢して、リコリスと親し気な人間であるフォルトゥナに声を掛けた。自身が所属する錬金部署の署長だったので丁度良かった。(事実、フォルトゥナ以外のリコリスが親しい他者などネディネーネは知らなかったので頼るしかなかった。スチームは役に立ちそうにないので除外。)
「何よ」
「いや。おもしれーって思って」
どこか、にやにやと笑っているその顔に小さな怒りが湧く。他人事で楽しんでます、と言う感じだ。
「面白がってる場合じゃないのよ! そいつを引き留める方法ってないの? 人間に最も効果的な手法で! あるなら教えなさい!」
ずい、とフォルトゥナに詰め寄る。途端に呪いの焦げ臭いにおいを感じ、ネディネーネは一歩下がった。
「おわ、必死。んー、『相手は誰か知らないけど』。人間の男なら、行動心理学とかで落とした方が……ちがうな。まずは人間の恋愛を知ってみると良い。恋愛ジャンルの物語とか、リコりんに読んでもらいな。それで、気になったところをリコりんに訊けば良いよ。彼なら、教えてくれるから」
「そうなの? 分かったわ」
どうやら相手が誰だとか分かっていないらしい、とネディネーネは安堵する。なんとなく、知られることに恥ずかしさを感じていたからだ。(ちなみにフォルトゥナ自身はネディネーネの交友範囲を知っているので、おおよその相手は特定済みである。)
「理由を聞かれたら、『人気の分類だと聞いた』とかでもいえば良いよ。世の中の、演劇の大半は恋愛ジャンルだ。ドラマも恋愛、映画も恋愛。俗っぽいねぇー」
「ふーん。せっかくだから、そう言っといてあげるわ」
恋愛ジャンル、とはよくわからないが。そういう分類の物語を読めば、リコリスを引き留められるかもしれない。そうと分かり、ネディネーネは早速図書館に向かうことにした。
「魔導書庫はまだ段階が早い」とフォルトゥナに言われたので、図書館の本から探すことになる。
「いやぁ、長生きしてみるもんだな。まぁ、面白がっちゃダメか」
小さくフォルトゥナが呟いたが、誰にも届かなかった。
×
「恋愛ジャンル……ここね」
司書の構成員や本を探す構成員を無視して、案内図や本棚に書かれている文字を参考に恋愛ジャンルの場所を特定した。周囲には沢山の種類の本。
「……どれがいいのかしら」
言いつつ一つ抜き出し、パラパラと目を通す。
「こんなもので引き留められるのかしら……?」




