開始15
きっかけは何だったのだろう。
魔法ならば『魔法をかけられた瞬間』だとか、言い訳ができたというのに。
とにかく。
「(僕の感情如きで、彼女を振り回す訳にはいかない。魔法薬でも飲んで、緩和させねば)」
精神異常に関する魔法薬で事足りるだろうか。
「(そういえば、最近の魔法薬はネディーネーネ君が作っているのだったか)」
まあいいだろう、と思考を放棄した。誰が作っていようと魔法薬は魔法薬だ。
「ストレスの原因は見つかった?」
後日。魔法薬を購入しているとフォルトゥナに声をかけられた。
「ああ。なんてこともない、精神異常だったよ」
「それ大丈夫なの」
「問題ない。感情など、脳内物質のコントロールさえできればどうということもない」
「そうかねぇ?」
「この系統の魔法薬を飲みたいのだが、長期摂取における注意はあるかな」
「ん? そうだねー。依存とか暴露とかはないはずだけど。やめたら戻ってくるからね」
「つまり、常飲すれば良いのだろう?」
「それはそうなんだけどさ、限度ってもんがあるんだよ」
困った様子でフォルトゥナはため息を吐く。
「あと、それ飲んでたら摂取できなくなる魔法薬とか出てくるから、ほどほどにしときなよ」
「そうだね。いずれは治る異常だから、問題はないと思うけれど」
「ふぅん?」
腕を組み、フォルトゥナは首を傾げた。疑っている様子だ。それに「原因は特定できたから、あとは対処するだけだよ」とリコリスは答え、自室へと戻る。
「ただの精神異常。緊張状態における脳内物質の過剰放出に過ぎない」
と、思いたい。何せ、こんな感情を持つなど初めてだったからだ。
「(書物で情報自体はある程度は知っているが、体験とどう違いが出るか……)」
魔法薬を飲んでいるだけで、問題は解決するのだろうか。制御できない(可能性のある)感情がこんなにも厄介だとは。
カウンセリングを終えてからも月に数度、休日が合ったタイミングでネディネーネと本を読んだり話をしたりしている。だがこの不調(?)の事を考えると、彼女とはもう会わない方が良いのではないか?
「カウンセリングの終了も、意外とあっさり受け入れてくれたし。まあ、徐々にフェードアウトくらいはできるだろう。そうして彼女と距離をとっていけば良いはずだ。脳内の報酬系の刺激量を少なくして、通常に戻す。……戻る、はずだ」
正直いうと、戻ってもらわねば困る。たった1人のハイエルフに抱いた感情で生活が変わるなど、考えたくなかった。




