開始11
「そんなに他人が怖いかい?」
「そ、そんなことないけど……」
スチームが去った後、ネディネーネは安堵したように見えた。小さい妖精でも警戒してしまうなら、大きな人間や怪異達はもっと怖いだろう。
「人馴れしてくれないと、こちらとしても少々困るのだよね」
「困る?」
リコリスの零した言葉に、ネディネーネは顔を上げた。
「僕が君の親ではないのは、分かるだろう?」
「当然じゃないの。というか、私には親は居なかったわ」
「そうだね。僕と君は他人だ。だから、ずっと一緒に居られる訳じゃない」
そう告げると、彼女はハッと目を見開く。
「な、何よ! お前が私をここに連れてきたんじゃない!」
「そうだとも。でも、行く意思を見せたのは君だ」
「……うぐ」
「そもそも、僕は人間で君はハイエルフ。……時間の過ごし方に差があるのは、分かるかい?」
ネディネーネと視線を合わせる。
「差?」
「第一に言えば、寿命が違う。人間は、生きる時間が限られている」
「そうなの?」
首を傾げたネディネーネに、リコリスは丁寧に説明した。
「君の年齢は……推定5000歳以上だが、連合の魔法使いは500年程度しか生きない。10分の1だ」
「そんなに短いの!? ちっぽけな命なのね」
「そう。君の感覚でゆっくりと慣らしている暇はない。魔法連合は組織にいる人間の速度で、大半の物事が行われている。だから、そろそろ人馴れしてくれないと……僕の仕事量が面倒なことになるのだよね。魔導書も読みたいし」
「自分のことじゃないの」
リコリスが肩をすくめると、ネディネーネはムッとした表情で口を尖らせる。だが魔導書を読むことを嗜好としているリコリスにとっては、正直にいうと死活問題なのだ。
「そうだとも。僕には僕の人生があるし、僕なりの時間の過ごし方がある。君には申し訳ないけれど」
「……何が言いたいのよ」
「これ以上、自分の足で立てない子には付き合ってられない……という話だ。分かるかね?」
「……もしかして、怒ってる……の?」
「どうかな。僕は一社会人としての話をしているだけだ。怒っているかもしれないし、ただ説教垂れているだけかもしれない」
「うー……分かったわよ! 慣れたら良いんでしょう! 慣れてやるわよ、ここにいる者達なんかに!」
「全員と友達になれとは言わないよ。ちょっとした用事の声かけぐらいができれば、それで良いからね」
「ふんっ! できるわよ、それくらい!」
憤る彼女に大丈夫そうだなと思う。




