開始
所属している魔法連合から、『ウィザリングに荒らされた森の調査へ行け』と命じられた。情報収集等を担当する写本部署のリコリスが行うのは、当然の話だった。
ウィザリングとは、怒れる自然。森の植物を食べ尽くす貪食なエルフのことだ。ウィザリングが3人集まれば森が死ぬと言われている。
その凶暴さゆえに調査の難易度は高い。だから、写本部署長であるリコリスが派遣されたのだ。
向かった森は、酷い有様だった。
「……何もない、な」
本当に森だったのか怪しい程に、何もなかった。完全な更地だ。
「地面すら掘り返されている……これでは再生に時間がかかるだろうね」
植物の根や種子まで食べ尽くしたのだろう。よほど貪食なエルフだったと見える。
森だった場所を歩き回り、情報を集めた。まあ、『何もない』という情報しか集まらないだろうが。
アヴァランチ(貪食なダークエルフ)の可能性も視野に入れていたが、生き物の死骸や血痕は見当たらなかったのでやはりウィザリングだったのだろう。
魔道具を使い、収集できる情報は大体収集し終えた。撤退をしようと考えていたところ。
更地の真ん中に、白いエルフが居た。まるで雪の精霊のようだ。
「(……ハイエルフ、か?)」
長い年月を生きたエルフは髪の毛や瞳や肌が白くなり、ハイエルフと呼ばれる。彼らはエルフの群れを離れ、1人で森を守って暮らすのだ。
初めて見た。
「(つまり、ここはハイエルフの守る森だったのだな)」
新しい情報だった。
それを媒体に記録しながら、ハイエルフの様子を観察する。
はらはらと涙を流していた。
美しい、と思ってしまった。
「(……僕は何を)」
ハッと我に返る。
エルフが美しいのは当然の話のはずだ。世界で最も美しい怪異と呼ばれる存在なのだから。
魔法連合の中にはエルフやダークエルフなど居るし、見慣れていたはず。それなのに、思わず見惚れる何かがあった。
立ち尽くしているエルフは、体型からして雌の個体だろう。豊満な身体つきで、エルフ特有の服を着ている。頭部には兎の耳のようにも見える羽飾りを付け、額には化粧を施している。
顔立ちはエルフらしい完成された美しさで、少女のような清廉さ、あどけなさがあるが、それでいてどこか妖艶。とびきり長く繊細な睫毛は上向きで、肌はきめ細やか、髪は艶やかでなめらか。
見たところ、立ち尽くしているだけで害は無さそうだ。保護をした方が良いだろう。
気付けば声を掛けていた。
「魔法連合に来ないかい?」




