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面食い王子の回顧録  作者: 無虚無虚
面食い王子の回顧録
8/17

挫折

 あれから二年が経った。

 妃をすげ替えるどころか、結婚式の目処も立っていない。死に物狂いで帝王教育を一年で終わらせたものの、政務ではリリアンヌに全く歯が立たない。

 政務に携わるようになったので、魔導省の業務内容がある程度は自分にも伝わるようになった。そのおかげでリリアンヌが何をやっていたのか知ることができた。

 リリアンヌは多くの公共事業に携わっていた。コルマール平原の開墾、ノーブル河の治水、モンブリーの養蚕、ニーシェル山噴火からの復興、これらの重大事業でリリアンヌは魔法の力で貢献していたのだ。リリアンヌ抜きではこれらの事業の成功はおぼつかなかった。今やリリアンヌはロニオン王国に必要不可欠の人材だった。あのアルベールの言葉は本当だった。

 自分が企んでいた妃のすげ替えなど、夢物語どころか妄想だった。父は父親である以前に国王だ。自分がリリアンヌを捨てようとしたら、父は容赦なく自分を捨てるだろう。次善の策のつもりでマリーを側妃に迎えることを考えていたが、このままでは側妃どころか正妃を迎えることもできない。

 ワーズ公からは三年の猶予をもらったが、結婚式の当日に新郎を変更するわけにはいかない。式に参列する側にも準備が必要だ。結婚式は遅くとも半年前には公にしなければならない。つまり実質的な猶予は二年半しかなかった。そしてすでに二年が経ってしまった。もはやなりふり構っている場合ではなかった。

 父に今すぐにでもリリアンヌと結婚したいと言った。父には「政務に携わるようになってから結婚したい」と言っていたからだ。だが父の返事は予想しなかったものだった。

「まだ早すぎる」

「なぜですか? 自分も政務に携わるようになってから一年が経ちました」

「年数の問題ではない。実績の問題だ。おまえはリリアンヌ嬢に、夫として王として相応しい男になってみせると約束したそうだな」

 迂闊だった。確かに見栄を切ってそう言った。リリアンヌは当然そのことを父親のワーズ公に話しただろう。そしてワーズ公は父と仲が良い。当然父にもその話は伝わっているはずだ。

「王は綺麗事では務まらない。ときには二枚舌を使うことも必要だが、それも場合によりけりだ。結婚して将来を添い遂げる相手に二枚舌を使って、良好な関係が築けると思うか? 世継ぎをもうけることだけが目的の側妃ならまだしも、政務において協力してもらわなければならないリリアンヌ嬢に対して、そんな真似が許されると思うか?」

 正論だ。だがこれを論破しないと自分の未来はない。父に言われた言葉を引用しよう。

「自分とリリーでは、才も適性も違います。比較はできません」

「ふむ、だが貴族たちや王宮の官吏たちはどう思うかな。『妻におんぶされた王子』は嫌ではなかったのか」

 墓穴を掘った。同じことをされて分かったが、これは悪手だった。

「おまえにリリアンヌ嬢と同じことができるとは期待していない。半分どころか十分の一でも無理だろう。だがせめて手柄の一つぐらいは立ててほしかった。そうすればなんとか体裁を整えられたのだがな……今のおまえは下級官吏どころか、その見習い程度でしかない」

 目に見える成果が出せていない以上、努力をアピールするしかないか。

「自分だって死に物狂いでやってます。帝王教育だって一年で……」

 だが父は自分の言葉と努力を鼻で笑った。

「死に物狂いだと? ジェレミーはおまえより先に帝王教育を終えているぞ」

「は?」

「何を驚いている。ジェレミーはおまえの予備(スペア)だ。当然おまえと同じ教育を受けさせている。三歳も年下の弟に抜かれているんだぞ。今ごろ危機感を覚えても遅い」

 そう言われて九年前のことを思い出した。あのときは、自分は凡庸な王子だと悟ったつもりになっていた。だがそうではなかった。自分は三歳下の弟にも劣る無能な王子だった。自分はまだ自惚れていたのだ。

 このときの自分はボロボロだった。だから自棄(やけ)が混じった台詞を吐いてしまった。

「父上は最初からジェレミーをリリーと結婚させるつもりだったのですか?」

「何を言っている? そんなわけがないだろう。おまえが初対面での失敗を反省して、リリアンヌ嬢と良好な関係を築けるのなら、おまえを結婚させるつもりだった。ジェレミーがリリアンヌ嬢と良い関係を築けるかは未知数だからな。おまえとジェレミーの能力差など、リリアンヌ嬢の前では誤差の範囲だ。だが自身の能力を結婚の条件として持ち出したのはおまえだ。一度口にした言葉はなかったことにできぬ。ましてや王族の言葉は重い。すぐに前言を翻すようでは、いざというとき誰もついてこない」

 ただでさえボロボロだった自分の心は、ズタボロになった。

「第一王子として成すべきことを成せ。儂からおまえに言えるのはそれだけだ」

 父に反論する言葉も勇気も、自分には残っていなかった。

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