調査報告
「クレマリア・メール公爵令嬢には婚約者がいました。ペリゴール侯爵家の嫡男、テオドナ殿です」
王宮の自室で従者のヴィルマンから報告を聞いていた。
「ですがテオドナ殿は急病で一月前に他界しています」
なるほど、あの黒い腕章は喪章のつもりだったのか。
「テオドナ殿には弟がいましたが、すでに全員に婚約者がいました」
貴族の婚姻は本人同士の関係より家同士の関係が重視される。どちらかが死んだら兄弟姉妹に婚約相手が差し替えられるのは珍しくない。だがマリーの場合はそれができなかったのか。
「メール公爵は新たな婚約相手を探していましたが、難航していたようです」
それはそうだろう。高位貴族ほど早めに婚約を決めてしまう。相手を選ばなければ引く手数多だろうが、公爵家としてはそういうわけにはいくまい。
「その結果があのデビュタントだったわけか」
「そう考えるのが自然かと」
「マ……クレマリア嬢とテオドナ殿との関係は?」
「良好だったと言われていますが……」
「信憑性は分からないか?」
「御意」
不仲であれば隠すのが当たり前だからな。
「長く音信不通だったが、クレマリア嬢は幼馴染の一人だ。できれば幸せになってもらいたい。そうだ、花を贈ってやれ」
「どのような名目で、でしょうか?」
「婚約者を亡くしたことへの弔意と、デビュタントへの祝意だ」
「ペリゴール侯爵家と他のデビュタントたちへも贈りますか?」
「そこまでする必要はない。幼馴染という縁によるものだ」
「ではそのようにお伺いを立てておきます」
自分はこのときカッとなってしまった。
「花束一つ贈るのにも、いちいち父上の許可が必要なのか!?」
「失礼ながら、殿下はまだ立太子の儀をすませていません」
ヴィルマンの言うとおりだった。結婚して王太子になればある程度は自分の裁量で社交ができるが、ただの王子では社交は両親の采配に従わなければならない。王族とは存外不自由なものだ。
「……そうだったな」
最終的には両親の判断で、王家から公爵家と侯爵家に弔意を伝える使者を出すことになった。
「リリーはどうしている?」
「魔導省でご多忙のようです」
リリアンヌは今では筆頭宮廷魔導士を勤めていた。
「何の仕事をしているのだ?」
「魔導省は相変わらずの秘密主義でして……ご本人に直接訊かれた方がよろしいかと」
「その本人も秘密主義にかぶれているのだ。まあいい。大賢者の称号を得たといってもまだ十五だ。大した仕事ではあるまい」
本当に重要な仕事をしているのなら、自慢したくなるはずだ。