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面食い王子の回顧録  作者: 無虚無虚
面食い王子の回顧録
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盗み聞き

 アルベールの教育を二週間ほど受けて、ようやく自分の立ち位置を理解することができた。自分は王子としては凡庸な存在だったのだ。使用人や(両親が用意した)友人たちからは褒められてばかりだったので、幼い自分は自身を特別な存在だと勘違いしていたのだ。だが特別だったのは王子という地位で、自分という人間は決して特別ではなかったのだ。

 自分にはジェレミーという三歳違いの弟がいる。第二王子だ。もし自分に何かあったときはジェレミーが王位を継ぐ。自分は替えがきく存在なのだ。

 だがリリアンヌは違った。わずか八歳で大賢者の称号を得た人物など、彼女以外は歴史上存在しない。彼女自身が特別な存在だったのだ。

 そのことに気づくきっかけとなったのは、両親の会話を盗み聞きしたことだ。


「ファビアンにも困ったものだ。このままでは婚約が破談になってしまう」

「アルベール殿が手を尽くしているようですけど、かえって頑なになっているようですね」

「王族には手を上げられないとはいえ、コニー夫人は甘やかしすぎたのだ。今さら言っても詮無いことだが。改善が見られないのなら、強硬手段をとるしかあるまい」

 父のこの言葉を聞いたときは、背筋が寒くなった。

「婚約者の差し替えですか」

「うむ、リリアンヌ嬢はジェレミーと婚約させる」

 これを聞いたときは一転して嬉しくなったが、次の言葉で奈落の底に落とされた。

「ファビアンは廃嫡だ。王位はジェレミーに継がせる」

「そこまでなさいますか」

「重要なのは、リリアンヌ嬢の血を王家に取り込むことだ。ジェレミーをワーズ公爵家に婿に出すのでは意味がない。婿に出すのはファビアンになる」

「どの家に出すおつもりですか?」

「まだ決めていないが、ワーズ公爵家はダメだな。子供を交換するような形ではワーズ公爵家との距離が近くなりすぎて、派閥の均衡が崩れる。それにファビアンの印象は最悪だ。無体な真似はしないだろうが、大切にされるとも思えない」

「派閥の均衡を仰るのなら、メール公爵家あたりが有望でしょうか?」

 この母の言葉を聞いたときは複雑だった。王位を継げない代わりにマリーと結婚できる、それは本当に自分の望んだことなのか分からなかった。

「いや、それも拙い。メール公はかなりの野心家だ。ファビアンという神輿(みこし)を与えたら、王家に反旗を翻すかもしれない。儂の目の黒い内は抑え込めるだろうが、ジェレミーとリリアンヌ嬢に災厄の種を残したくはない。息子たちが玉座を巡って血を流し合う未来など真っ平だ」

 これを聞いて再び目の前が真っ暗になった。父は自分とマリーの結婚を認めるつもりはないのだ。それにジェレミーと殺し合いをする未来など、自分も想像したくない。

「適当な家が見つからなければ、王領の一部を与えて一代限りの公爵家を興させて飼い殺しにするしかない。父親としてはそんなことはしたくないが、あの子の我が儘で国を危うくするわけにはいかない」


 後にこの会話はわざと自分に聞かせたものだと知った。それぐらいしないと自分は反省しないだろうとアルベールが父に献策したのだ。そのことを知ったときは腹立たしかったが、アルベールが言ったとおりだったので、何も言えなかった。

 同時に遊び相手からマリーが外された。正確には全ての女児が外された。これは婚約者が決まったためだとされた。こちらもド正論なので、誰も文句を言えなかった。


 自分が失敗させた初顔合わせから一ヵ月後、二度目の顔合わせが王宮で行われた。今度の自分の付き添いは両親だった。無理やり公務の日程をずらしたらしい。自分が両親からの信頼を失っていたのと、叔母のシャレル侯爵夫人が強く辞退(実質的な拒否)したかららしい。

「このまえはごめんなさい」

 両親に言い含められていたとおり、自分はまずリリアンヌと公爵夫妻に謝罪した。

「わたくしはきにしていませんわ。なかよくしてくださいね」

 リリアンヌはそう答えた。

 その後は両親たちは和気あいあいと会話を楽しんでいた。父とワーズ公は従兄弟同士で元々仲が良かった。

 しかし自分はリリアンヌとうまく会話ができなかった。リリアンヌは気を使って色々な話題を振ってくれたのだが、自分はうまく答えることができず、会話が長続きしなかった。

 だがそのことで叱られることはなかった。どちらの両親もそこまで上手くいくとは期待していなかったようだ。最初が悪すぎたので、あれでも上出来と思われていたようだ。


 その後は月に一回のペースで逢う機会を設けて親交を深めていった。リリアンヌに愛情を覚えることはなかったが、自分は王族なのだから、これは政略結婚なのだからと、諦観に似た割り切りができるようになった。否、できると錯覚していたのだ。

 それが錯覚だと気づいたのは、十五歳のリリアンヌのデビュタントのときだった。

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