答えはない
創作者
忘れもしない。あの時は、いや、今もなお創作に溺れている。心地の良い海底である。然しまぁ、どうにも溺れる一方で少しも泳げやしない。沈むだけだ。息ができない。息ができない。私が残したものが、残そうとしたものがそれは私だけが覚えていてあとはただの記録であるだけだった。ただのデータでしかなく、とうの昔に忘れてしまった。
「さて、私だけ溺れたのは何故。変わらないのに。ずっと変わってはいないと言うのにだよ。おかしいんだ。進めなくて、足を取られてしまって、底なし沼のように、ひたすらに恐ろしいのだよ。」
いよいよ良くない、こうして考えては思考が浮上しなくなってしまう。深呼吸をしよう、気休め程度の、それでも落ち着ける、そう思い込んでいるだけかもしれない、ひとつ深呼吸をする。
空気はすんっと冷えていた。晩秋のすーっとした、言い難い寒さなのだ。昨日まで暖かかったのだ。優しかったのだ。それだからか余計に冷えていた。
鉛筆やらA4用紙やら飲みかけのペットボトルやら、現像した写真やら、自堕落さの目立つ乱雑な机。
描きかけの、余白の多いスケッチブック。中途半端に水彩で色付けがされている。誰もいない教室の絵。
題名と名前とを書いて、あと数行だけ埋まっている空白の原稿用紙。消したあとが目立つそれは何度も消した摩擦で少し黒ずんでる。
真鍮を研鑽して作った抽象的で歪な形のペーパーナイフ。きっと使わずに引き出しの中で眠る。
薄暗い部屋に作りかけの作品達が並んでいた。
それが現実であった。
「何者かになれなかったのだ。憐れであろう。なりたかったのだ、かつてそれを信じていた自分を救うためなのだ。愚かだろうか。」
創作をする者以外も何かしらに悩んでいるものですがそれはそれとして創作者は異常に悩んでいるのです。些細な事にすら、心を乱されるのです。