#2 死体の通告
「はい、今朝の死体報告書」
街で発見された死体が集まる“死体保管所”から戻って来たアスランは、死者の名前と、身元不明の死体についてはその特徴が記されているリストを差し出した。
「いつも、ありがとう」
「ん」
そして、彼は一仕事終えたかのように、ソファーに大袈裟に座り、結んでいた金髪の髪をほどく。
アスランは、私より3つほど年上らしいが、中性的な顔立ちのせいか、私よりも年下に間違えられることがある。
本人はそれを少し気にしているらしい。
「今日は若い死体が多い」
「え?」
「今日っていうか、この頃、急に増えた。正直、年寄りの死体見るより堪える」
彼に言われて、リストに目を通すと、確かに二十代の死体がいつもより多い。
「ほんとだ。何か流行り病とか…?」
「アスラン?」
突然受付の方から、アスランを呼ぶ声が聞こえる。
その声の方を見ると、そこにはうちの社長のユラリスさんがいた。
口元には笑みを浮かべているものの、目は笑っていない。
「何ゆっくりしてんの?今日の死体通知書、印刷所で印刷して、ポスティングまでした?」
「あ、はい。今からやろうと、ちょうど思ってて!ははは」
アスランは笑ってごまかし、慌てるように飛び出して行った。
「まったく…。いつまでも手がかかる」
ユラリスはため息をついた後、私の方を見つめる。
「ルナは、今日も通告、よろしくね」
「はい」
“通告”
それは、ここで私が最初に覚えた仕事だった。
人が行き交う賑やかな街の中心で、掲示板の前に立つ。
そして、私はこれから、誰かの人生を、誰かの心を壊すことになるかもしれない言葉を口にするのだ。
「昨夜から今朝にかけて発見された遺体を通告します」
横目にちらっと見る人、全く気にせず通り過ぎる人、かたや固唾を飲んで見つめる人がいる。
「十番街の酒場にてユリシーズ・ネイル、ブリンジ橋の下にてカール・ウィリアム…」
老夫婦は依然として、こちらを祈るように見つめている。
それでも、私は淡々と続けなければならない。
「次に、身元不明の遺体について通告します」
この町で1日に見つかる遺体のうち、4割は身元不明の遺体だ。
「遺体1091番。九番街の路地裏にて発見。女性。ブロンドの髪に…」
その身元不明の遺体が誰なのか明らかにする。
「深い緑色の瞳、服装は赤色のドレス…」
明らかにして、帰すべきところに帰す。
死を弔えるように。それがこの“通告”の大きな意味。
「そして、11/26と刻まれたネックレスを着用していました」
その言葉を口にするのと同時に、老夫婦のうちの女性婦人は力が抜けたように、膝から崩れ落ちた。
愛する人の死を通告され、泣き崩れる人々を見てきて、時折思う。
死んだことを知らされないままの方が幸せなのではないかと。
知らなければ、まだどこかで生きていると思えるから。
「本日午前の通告は以上です。身元不明の遺体について情報をお持ちの方は、私、もしくはテ・レデオ社にご連絡ください」
それでも、私は彼の「遺体」を探している。