#1 あの日の記憶
「ソル!!!!!!」
彼の少し後ろに、最後の体力を振り絞るようにのろのろと起き上がる敵兵の姿が見えた。
その瞬間、嫌な予感がして、考えるよりも先に、身体が動く。
ソルを押しのけた後、目の前に、鋭い刃の先端が。
左目にこれまで感じたことのない衝撃が走り、気づけば、夜空を見上げていた。
そうか、あの兵が投げたナイフが私の目に…。
意識が朦朧と彷徨うなかで、血相を変えたソルの表情が視界に入る。
「ルナ!!!!」
ああ、どうか、そんな顔をしないで。
「すぐに手当てを!!」
「はい!」
周囲が騒ぎになっているようだけれど、一方の私は、徐々に声が聞こえづらくなり、意識が遠のいていくのを感じていた。
「傷が…。顔に傷が…。俺のせいだ」
目の前が真っ暗になる直前、私は、この傷のせいで彼と一緒に戦場に出られなくなったらどうしようと、朦朧とした頭で考えていた。
ベッドの上で目が覚める。
「っ!!!」
喉が渇く。汗がにじみ、動悸が止まらない。私は、徐に左目を押さえる。
そこには、人工的に作られた宝石のように輝く蒼い瞳がある。
「夢…」
久しぶりにあの時のことを夢に見た。
どうせ、彼の夢を見るなら、戦場でないもっと楽しい記憶にしてくれれば良かったのに。
そんなことを思いながら、カーテンを開けて窓の外を見ると、朝日が昇り始めていた。
「あなたは、どこにいますか…?」
今日は、あの夢のせいで、早く目が覚めてしまった。なので、朝食を準備しようと、キッチンに立つ。
薪に火を焚いて、スープを作り、パンを切ってバターを塗る。
時計を見ると、気づけば、もう6時59分を指していた。
スープとパンを机に2人分置いて、朝ごはんの準備が終わったのと同時に、奥の部屋のドアが開き、マーテルさんが大きなあくびをしながら起きてきた。
彼女は、戦場にいた時の癖が抜けないのか、何があろうと毎日7時ぴったりに起きる。
「おはよう。マーテルさん」
「おはよう~。ん?なんかいい匂いが…」
「隣のユーリおじさんからコーンをいただいたから、それでポタージュを」
「あんたが作ってくれたの!?」
「うん。早く起きたから。たまにはって」
「そんないいのに。あんたはまだ子どもなんだから」
「…」
「もっと、ちゃんと、年相応の子どもでいていいんだよ。でも、ありがとう」
マーテルさんは、私に口癖のように「子どもらしくしなさい」と言う。
もう、私は24歳で仕事もしている立派な大人だというのに。
マーテルさんが背伸びをして、私の頭を撫でる。
私の身長が伸びたばかりに、昔より、少し撫でづらそうだった。