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9/17

11:00-2

 譲青年が「ごちそうさまでした」と手を合わせる頃、圭の掃除も完了した。

 綺麗だ。

 あのどんよりとして薄暗かったリビングが、輝いて見える。


「圭君、掃除が上手なんだね」

「別に特別上手ってことはないと思うけど」


 少し照れているようだ。こういう、ちょっとしたことに対する誉め言葉に、慣れていないのかもしれない。


「春日君、もう大丈夫かい?」

「はい。もう、動けると思います」

「じゃあ、譲。結界」


 フロアワイパーを元の場所に戻しながら、圭が言う。さっきまで倒れていた人間に対して、なかなかにぞんざいだ。

 だが、譲青年は特に何も気にする様子もなく、こっくりと頷いた。


 両の掌を合わせ、指と指を絡め、ぎゅ、と握り締める。神様に祈るように。

 ぎゅっと一度強く握りしめたのち、ゆっくりと両の手を開いていく。内側にいたものが大きくなっていくかのように、ふわ、と中のものを開放するかのように。

 中身は、何もないけれど。


 良くは分からないが、圭が「結界」といったのだから、もしかすると結界というものが入っているのかもしれない。それが、譲青年が手を開くと広がっていく、のかもしれない。

 かもしれない、ばかり連ねてしまうのは、正解が分からないから予測するしかないからだ。何をしているのか尋ねるのは野暮だし、むしろ尋ねても答えてもらえるかもわからない。

 圭に聞いたとしても、鼻で笑いながら「見て分からない?」くらいは言われそうな気がする。

 いや、ちょっと面倒くさそうな顔をして、教えてくれるかもしれないけれども。

 いずれにしても、圭君が「結界」と言ったのだから、結界なのだろう。もう、そういう事にする。


「桂木、遮断できた」

「分かった。じゃあ、やるか」


 譲青年の言葉に、圭が真顔で返す。

 カーテンを開けて掃除をし、綺麗になった部屋。おかゆを食べて元気になった譲青年。結界とやらを張り、準備万端となったのだろう。

 圭はパン、と強く柏手を打つ。


「ここは清浄なる気を巡らすなり。風が渦となり、上から下へと流れてゆく。終着点は、この場所となる」


 パンパン、と更に柏手を打つ。


「上より下へと流れゆけ。清浄なる気は上から下へ。渦巻き流れ、ここへ行き着く」


 圭はそう言うと、ふう、と息を大きく吐いた。柏手を打った手は、合わせたまま離れていない。

 未だ、圭がやっている何かは終わっていないのだ。


 暫くすると、とん、と階段の方から音がした。

 とん、とん、とゆっくりではあるものの、階段を下りる音がする。音の小ささから、はるかの足音だと分かる。


「下りてきてくれたんだね」


 小さな声で、私は呟いた。

 彼女が厄禍となっていると聞いても、私にはまだ幼い子供にしか思えなかった。

 もちろん、圭と譲青年が対処に当たらなくてはならない、大変な事態を引き起こしたということは分かっている。

 だが、それでも、まだ十歳の子どもなのだ。

 小学校に通い、友達と他愛のない話で盛り上がり、大人に甘えたり反発したりして、これからどんどん成長していくだけの、守られるべき存在なのだ。

 だからこそ、二階に逃げ込んで下りられなくなったであろうはるかが、階段を下りてきてくれるだけで、なんだかほっとしてしまった。

 きっと圭と譲青年がなんとかしてくれるに違いない。

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