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3/17

9:30-2

 黙ってしまった私を見、圭は小さくため息をつく。


「まあ、そうならないように今向かっているんだから」

「ああ、うん、そうだね」


 私は圭の言葉に、はっとする。今、私が帰着したかもしれない場所を考えている場合ではない。

 今考えるべきなのは、厄禍となってしまった人の事だ。

 そうして、気付く。最初に書かれていた名前に。


「じゃあ、この……山内はるか、という人が厄禍に?」


 圭は頷く。

 私は再びその名前に目をやる。簡単なプロフィールも書いてある。


 山内はるか。10歳。

 父と母と一軒家に住んでいる、小学四年生。

 依頼者は母親、娘の様子がおかしいことに加え、ちょっとした不幸が続くのが依頼理由だとある。


「……10歳」


 ぽつり、と私は呟く。

 まさか、と心の中で付け加える。

 まだ、たったの10歳の女の子が。小学四年生の女の子が。厄付という体質を持ってしまったがために、厄禍となり、恐ろしい場所へと向かおうとしているというのか。

 居たたまれない気持ちになり、ぎゅう、と紙を握り締める。ぐしゃり、と紙が音を立てて皴を作る。


「対処に当たったのは、春日 譲(かすが ゆずる)。結界を張るのが一番うまい」

「結界、かあ」


 私は普段使わない言葉にドキドキする。昔読んだ、漫画や小説を思い出す。

 いや、実際に圭が結界を張っているのを見たことがあるのだから、初めて聞く言葉という訳でもない。だが、どうだろう。何度聞いたり言ったりしても、慣れないというか、なんというか。

 どことなく、恥ずかしいような気がするというか。


「譲が行ったのは、昨日だ。家に入る前に、いつもと違うする気がするから、厄付かもしれないと華に連絡があった。何かあれば再び連絡すると言ったまま、連絡が取れない」

「それって、まだ山内家にいるということかい?」

「おそらく。そして、連絡ができない状態にある、ということだと思う」


 圭は神妙な顔で言う。恥ずかしいとか思って、申し訳ない気持ちになる。

 浄華の人たちは皆、真剣に仕事として向き合っているのだから。


「でも、昨日のうちに春日君の応援にはいかなかったのかい?」

「華が確認しに行ったけど、結界が張られていたんだってさ。譲は、厄禍に巻き込まれたと思っていい。と同時に、主導権を奪われている。人を拒む結界が張られていたそうだからな」

「その、結界とやらは、鈴駆さんでも壊せなかったってことなのかな?」

「力づくでいきゃ壊れるだろうけど、譲も壊れるだろうな」


 こともなげに、圭が言う。

 華嬢でさえ手が出せない結界が張られているのならば、圭が行ってなんとかできるのだろうか。

 私の疑問に気づいたように、圭が鼻で笑う。


「力には限りがある。昨日から結界を張っているのだから、もうすぐガソリン切れを起こすはずだ」

「ガソリン切れ……」

「俺は燃料を持ち歩くタイプだから、その点は勝ったな」


 圭が私を見て、悪戯っぽく笑う。

 非常食に加え、燃料呼ばわりか。全く、もう。


「お二方、まもなく到着いたします」


 運転席に片桐さんが、私たちに声をかける。多少なりとも笑っていた圭が、再び真顔になる。

 それほどの事態なのだ、と私は軽く緊張した。

 かつて教えてもらった腹に力を入れることを、そっと行うのだった。

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