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14/17

13:00-1

 時計を見、圭が眉間に皺を寄せた。


「もう、昼すぎてるじゃん」


 時計が差すのは、13時。あっという間に時間が経ったな、と私は思う。または、長い時間だった、とも。


「はるかちゃん、お腹、すいてない?」


 私が尋ねると、はるかは少し恥ずかしそうに「すいた」と答えた。その言葉に呼応するように、くるるる、とはるかのお腹が鳴った。


「勝手に台所を借りたんだけど、お粥を作っているから、良かったら食べないかい?」

「いいの?」

「いいも何も、この家の食べ物を借りて作ってるんだし」


 私が言うと、はるかは元気よく「食べる」と答えた。食欲があるなら大丈夫そうだ、と私はほっとする。温め直そうかとも思ったが、土鍋であったおかげか、温め直さなくても十分温かい。むしろ火傷しなくていいかもしれない。

 適当な器にお粥をよそい、スプーンと一緒にはるかに出す。はるかは「いただきます」と言って食べ始めた。


「おいしい」


 にこにことおいしそうに頬張るはるかに、私はつい顔が崩れる。可愛い。作ってよかった。


「桂木、両親は眠っているだけだから、時期に目を覚ます。念のために鈴駆さんに連絡したし、対処班が来るはずだ」


 いつの間にか階段を上がっていた譲青年が、リビングに入りながら圭に言った。


「ん、分かった。じゃあ、あとは譲でなんとかできるな」


 圭が言うと、譲青年はこっくりと頷く。

 どうやら、会社としての対応を行っていたようだ。


「俺も、もう一杯食べようかなぁ」


 ちらりと圭が土鍋を覗き込む。


「いや、両親が起きてきたときの為に、残しておいてくれないか?」


 譲青年が言うと、圭が不満そうに「ちぇ」と舌をうつ。

 そんなに気に入ったのか。ちょっと嬉しい。


「じゃあ、俺はもう何か食べにいく。おっさんも腹が減っただろ? 一緒に行こうぜ」


 圭が私を誘う。私が「わかった」と答えると、はるかが驚いたように私の方を見た。


「おじさん、いっちゃうの?」


 慌てたような物言いに、私は「そうだね」と頷き、はるかと目線を合わせるようにかがむ。


「そのうちまた会えるよ。生きているんだから」

「約束だよ?」

「うん、約束。次に会う時が楽しみだね」


 私がそう言うと、はるかが嬉しそうに笑った。


「お手伝いいただき、ありがとうございました」


 譲青年が、ぺこり、と私に頭を下げた。ちゃんと礼儀がなっている。


「大したことはしてないから、気にしなくていいよ。それより、春日君はお腹がすいてないかい? 良かったら、何か買ってこようか?」

「いえ、さっきお粥を頂きましたし、対処班が来てからでも構いませんから」


 譲青年はそう言い、今度は圭の方を向く。


「桂木も、助かった。ありがとう」


 譲青年のお礼に、圭は「ん」とだけ答えた。照れているのかもしれない。なんだか珍しいものを見た気分がする。


「行こうぜ、おっさん。腹が限界」


 圭はそう言うと、玄関の方へと向かう。


「おじさん、おにいちゃん、ありがとうございました!」


 ぺこり、とはるかが頭を下げた。私はそれに手を振って返し、圭はちらりと目線を送った。


「じゃあな」


 圭はそう言い、再び玄関へと向かった。私も慌てて後を追う。

 圭がはるかに向けた最後の視線に、私は少し驚いていた。


 それは、慈しむような、優しい「兄」のような眼差しだった。

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