13:00-1
時計を見、圭が眉間に皺を寄せた。
「もう、昼すぎてるじゃん」
時計が差すのは、13時。あっという間に時間が経ったな、と私は思う。または、長い時間だった、とも。
「はるかちゃん、お腹、すいてない?」
私が尋ねると、はるかは少し恥ずかしそうに「すいた」と答えた。その言葉に呼応するように、くるるる、とはるかのお腹が鳴った。
「勝手に台所を借りたんだけど、お粥を作っているから、良かったら食べないかい?」
「いいの?」
「いいも何も、この家の食べ物を借りて作ってるんだし」
私が言うと、はるかは元気よく「食べる」と答えた。食欲があるなら大丈夫そうだ、と私はほっとする。温め直そうかとも思ったが、土鍋であったおかげか、温め直さなくても十分温かい。むしろ火傷しなくていいかもしれない。
適当な器にお粥をよそい、スプーンと一緒にはるかに出す。はるかは「いただきます」と言って食べ始めた。
「おいしい」
にこにことおいしそうに頬張るはるかに、私はつい顔が崩れる。可愛い。作ってよかった。
「桂木、両親は眠っているだけだから、時期に目を覚ます。念のために鈴駆さんに連絡したし、対処班が来るはずだ」
いつの間にか階段を上がっていた譲青年が、リビングに入りながら圭に言った。
「ん、分かった。じゃあ、あとは譲でなんとかできるな」
圭が言うと、譲青年はこっくりと頷く。
どうやら、会社としての対応を行っていたようだ。
「俺も、もう一杯食べようかなぁ」
ちらりと圭が土鍋を覗き込む。
「いや、両親が起きてきたときの為に、残しておいてくれないか?」
譲青年が言うと、圭が不満そうに「ちぇ」と舌をうつ。
そんなに気に入ったのか。ちょっと嬉しい。
「じゃあ、俺はもう何か食べにいく。おっさんも腹が減っただろ? 一緒に行こうぜ」
圭が私を誘う。私が「わかった」と答えると、はるかが驚いたように私の方を見た。
「おじさん、いっちゃうの?」
慌てたような物言いに、私は「そうだね」と頷き、はるかと目線を合わせるようにかがむ。
「そのうちまた会えるよ。生きているんだから」
「約束だよ?」
「うん、約束。次に会う時が楽しみだね」
私がそう言うと、はるかが嬉しそうに笑った。
「お手伝いいただき、ありがとうございました」
譲青年が、ぺこり、と私に頭を下げた。ちゃんと礼儀がなっている。
「大したことはしてないから、気にしなくていいよ。それより、春日君はお腹がすいてないかい? 良かったら、何か買ってこようか?」
「いえ、さっきお粥を頂きましたし、対処班が来てからでも構いませんから」
譲青年はそう言い、今度は圭の方を向く。
「桂木も、助かった。ありがとう」
譲青年のお礼に、圭は「ん」とだけ答えた。照れているのかもしれない。なんだか珍しいものを見た気分がする。
「行こうぜ、おっさん。腹が限界」
圭はそう言うと、玄関の方へと向かう。
「おじさん、おにいちゃん、ありがとうございました!」
ぺこり、とはるかが頭を下げた。私はそれに手を振って返し、圭はちらりと目線を送った。
「じゃあな」
圭はそう言い、再び玄関へと向かった。私も慌てて後を追う。
圭がはるかに向けた最後の視線に、私は少し驚いていた。
それは、慈しむような、優しい「兄」のような眼差しだった。