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12/17

11:00-5

 はるかの頭から、ゆっくりと圭が手をおろす。

 腕は掴んだままだが、だらり、ともう片方の手はおろされている。


「桂木」


 譲青年が、問いかける。圭は冷たい目をしたまま、きゅ、と唇を結んだ。


「他に方法が、あるはずだ」


 静かに譲青年が言う。圭はそれには何も答えず、今度ははるかの方に顔を向ける。

 圭に見つめられ、はるかはびくりと体を震わせた。

 無表情な目が、怖いのかもしれない。いや、怖いに違いない。


「どうしろって、言うんだよ」


 ぽつり、と圭が言葉を紡ぐ。


「厄付本人が厄を手放す気がなく、厄も渦を巻いたまま、無理矢理はだめ、譲は空間の維持で手一杯……なら、俺に、どうしろと」


 静かに紡ぐ言葉は、譲青年に向かってのものなのだろうが、私にはそれが助けてほしいと言っているように聞こえた。

 どうするのがいいのか分かるのに却下され、かといって他の案を求めても何も出てこない。

 会議などでよく起こる、停滞に似ている。

 猫の手くらいにはなるかもしれない、と私も考える。経験は少ないが、私も超常現象に触れ合ったのだ。何かしら、案を出すくらいはいいのでは。ヒントくらいにはなるのでは。

 私だって、厄付という性質を持っているのだから。


「……そうか、厄付」


 ぽつり、と呟くと、圭と譲青年がこちらを見た。突然話し出した私に、二人から「何言ってるんだ?」の目線を感じる。

 私はその目線に負けず、言葉を続ける。


「圭君、私は厄付だろう? はるかちゃんの厄を、私の方につけられないだろうか?」

「……厄を?」

「同じ厄付なんだし、私なら厄を手放す気いっぱいですし」


 私が言うと、譲青年の眉間にしわが寄った。

 ああ、駄目な提案だったかな。


 だが、そんな訝し気な譲青年とは違い、圭はくつくつと笑い始めた。先程までの冷たい無気力な目と突き放すような声ではなく、いつもの少し悪戯っぽい目と揶揄うような声色で。


「いいね、おっさん。着眼点、すごくいい。そうだよ、おっさんにつけりゃいいんだ。幸い、おっさんの方がつきやすそうだし」

「ええ、そうなのかい?」

「そりゃそうだろ。誰だって、持っているものよりも持っていないものの方が欲しくなるじゃん」


 プレミアってやつかな?

 隣の芝生が青いとか、他山の石とか、そういうのかな。


「桂木、この人はお手伝いの人なんだろう? 巻き込んでいい人なのか?」


 譲青年が、私をちらちらと見ながら言う。

 まあ、それが普通だ。部外者を関わらせるのは、どの組織だっていやだろう。

 だが、圭の返答はあっさりしていた。


「おっさんは、大丈夫な人だから」


 なんだ、それ。

 謎の「大丈夫」発言に、思わず吹き出す。譲青年が大丈夫じゃなさそうに心配しているようだが、圭の自信は揺らぎそうもない。


 そう、私はきっと「大丈夫な人」なのだ。

 圭がなんとかしてくれるに、決まっているのだから。

 なんなら、今は譲青年もいるし、前回も似たようなことをやったし、きっと大丈夫だ。多分。


「じゃあ、おっさん。こっちに来て」


 圭の手招きに、私ははるかに近づく。はるかは私を見てびくりと体を震わせた。

 知らない人間が一人増えたら、そりゃあ怖いよなぁ。申し訳ない。


「ええと、はるかちゃん。大丈夫だからね」


 せめて少しでも怯えないように、と話しかけるものの、はるかは目に涙を溜めて私を見ている。

 その様子に、私は心が痛かった。

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