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第五話 魔道との出会い

 俺がこの体に転生してから3ヶ月が経過した。


 この頃になるとこの体での魔力の扱いを熟知し、病を完全に克服した。

 車椅子で移動する必要はなくなり、自身の足で移動できるようにもなった。

 長いこと飯を食っては魔力を循環させ、寝る。時々たまに外に出て日光を浴びるという生活を続けた結果、この体を蝕んでいた病に打ち勝ったのだ。

 つまりは、俺の勝ち、という事だ。


「お嬢様、食事の時間です」


 食卓につくとそこには香り高いハーブが散らされた肉料理が。

 体が全開したということは肉などの消化に悪そうな物をふんだんに食らえるようになったとい事だ。

 だからここ最近、俺は今まで我慢していた分の肉をたらふく食らっていたのだ。

 やはり肉は美味い。

 溢れ出る肉汁や、その旨み、芳香が口の中に広がるその瞬間は生を実感してしまう。そしてペレーは調理が上手いのだ。そんな彼女が作ってくれたそれの旨さは言うまでもない。久々に肉料理を食った時は涙が出てしまったものだ。


(うーん、最高!)

 

 舌鼓を打ちつつ、ささやかな幸せの時間を享受する。


 しかしながらまだ喜ぶには早い。

 病に打ち勝ったはいいものの呪いはまだ克服していないのだ。

 最初のプランでは3ヶ月ほどでこの呪いを消し去ることを想定していたのだが、措定していたよりも複雑に、さらには未知の構成であったため手こずっているのだ。


 呪いとは、魔物が扱う未知の魔法だ。

 この呪いは見たところ石像(ゴール)種が扱うものに見える。

 その効果は体内の魔力器官を蝕み、体の抵抗力を下げる。 

 最終的に死に至らしめる凶悪な呪いだ。

 この体を蝕んでいた病も、この呪い由来の物だと思う。


 まあ、この呪いの解除方法は心得ていたつもりだ。 

 人は未知の物を未知と置き、対処する術を持っている。 

 呪いもまたその仕組みは分からずとも解術方法はあるのだ。

 しかしながら、どうもこの呪いはおかしい。

 どれだけ俺の知っている解術方法を試しても解術される気配がない。


 その事に気づいたのは転生してから1ヶ月が過ぎてからだ。

 我ながら気づくのが遅すぎると思うが、まあ、うん、知らなかったんだもん。

 呪いが人為的に構築できる(・・・・・・・・・)事を。

 予想だが、この呪いは恐らく人為的にその効果を改造されている。

 解術を妨害する効果が追加されているのだろう。

 

 そんな未知の効果のせいで俺は戸惑ってしまっていたのだ。

 とまあ、そんな訳でまだこの呪いは解除できていない。

 

 でもおかしいな。

 俺の生きていた頃にそんな呪いに効果を追加するなんて技術なかったぞ?

 どういう事だ?




 えー、はい。

 どうして呪いに知らない効果を追加できるのか分かりました。


 えっと、簡単に説明するとこうだ。


 俺が生きていたはずの時代からおおよそ200年が経過していて、魔法技術がアホみたいに進歩していた。

 

 うん、どうして思い当たらなかった!?

 って感じだ。


 俺が生きていた時代から200年も経過したらそりゃ魔法技術も進歩するわな。

 つまりは俺は前時代の魔法の基準とこの時代の基準を同じだとだと思って首を傾げていたのだ。

 全く滑稽極まりない。

 バカだ。


 あー、恥ずかしっ!

 穴があったら入りたいぞ!


 

 

 ……ちなみにその事を知ったのは図書室にあった歴史書からだ。

 ハイルカイザー家は伯爵家であるだけあって、やはりデカい家をお持ちだ。

 

 病に打ち勝ったといはいえ、まだ呪いには打ち勝てていない俺は好きなように外を出歩けない。

 だから暇で暇で仕方ないのだ。 

 そんな暇を持て余している俺を見かねたのか、ペレーがこの家に図書室があることを教えてくれた。

 曰く、専門的な魔導書が多いが、一部には子供向けの小説もあるとのこと。

 

 別に子供向けの小説には興味はないのだが……魔導書ってなんだ?

 聞いた事ないぞ?

 小説なら知っているが魔導ってなんだ、魔法の近種か?

 そんな事をペレーに聞いてみると、「いや、魔導は魔導ですよ」なんて返されてしまった。


 そのままでは気持ちが悪いので直接図書室に潜り込んだのだが大量の本がそこにはあった。

 広大な部屋の中にはいくつも棚があり、その中には魔導書?とやらが陳列されている。

 

 気になるのでその中の一冊である「下級魔導書 火球」なる物を手に取り開いてみる。


 うーん、なになに?

 魔力を体外に放出し、炎を渦を形成する?

 何を言っているのだ?

 魔力は体内で流す物ではないのか。

 俺が生きていた時代だと魔力は体内で流し、身体能力を向上させる物という認識だったが、この時代では魔力そのもので何かを為すらしい。


 えっと、んん?

 え?

 魔力を体外へ排出する?

 当たり前のように魔力を体外へ排出すると書かれているがどうやってやるんだ、それ。

 さっぱり分からないぞ。

 体の中でぐるぐる回す事なら知っているが、体の外に?

 全くの未知の感覚だ。


 

 しばらく魔導書と睨めっこしたが、やはりどうやって魔力を体外へ排出させるのかさっぱり分からなかった。

 

「お姉様?こんな所に居るなんて珍しいですね」


 お、いいところにいるじゃないかブラン。

 

「あの、このふぁいあぼーる?という魔法はどうやって発動させるのですか?」


 すかさず手元の魔導書をブランにも見せる。

 まあ、うん、俺が分からないのだ。

 きっとブランも分からないだろう。

 あんまり期待はしていないが、理解している事を願おう──


「──ああ、これですか?えっと、とても簡単な事ですよ」


 あるえ?

 とても簡単?

 

「ほら、見ていてください」


 そして、ブランは手を掲げた。


「魔力を集中させ──凝縮させる」

 

 青白く光り輝く魔力がブランの手から零れ落ちる。

 

 美しく輝く粒子はやがて一点に集中し始め、炎を形成した。


 炎は渦を巻き、猛烈な速度で回転する。


 それは今まで見たこともない様な光景だった。

 やがて、魔力の供給をやめたのか、炎は霧散した。


「──えっと、こんな感じです……お姉様?」


 え、ええ、ええええええ!?

 魔導ってなんだ!?

 炎を操ることが出来るのか!?

 いや、違うな、今のを見る感じ、水も、空気も、はたまた重力も、全てを操れるのだろう。

 そう、この世の理を操るのだ、魔導は。


「なんだこれなんだこれなんだこれ!!!」


 本当に、その言葉に尽きる。

 これがあればもっと戦いの幅が広がる。

 もっと暗殺の方法が広がる。 

 やれる事が広がるのだ。


「……お姉様?」

  

「おっと、すいません。私としたことが、少し興奮してしまった様ですね」


 コホン、と一つ咳払いをして落ち着く。


 いやはや、それにしても本当に凄い。

 俺が居ない間に、魔法技術がこんなに進歩しているとは。

 まさかこんな事が起こるとは夢にも思わなかった。

 本当に人生とは何が起こるか分からないものだ。

 

 こんなに興奮したのは久々だ。

 動悸が止まらない。

 心がときめいて仕方ない。

 これはきっと恋、に似た何かだ。

 俺も魔導を知りたい。

 同じようにあの素晴らしい魔法を使いたい。

 そう思わずには居られなかった。


 とまあ、こんな感じで俺は魔導と出会った。

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