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第三話 ちょっと良くなってきた

 あれから1週間が経過した今日この頃、俺は峠を乗り越えていた。

 

 毎日毎日、嘔吐を繰り返しながら無理やり粥を胃のなかに嚥下し続けた甲斐あって、かなり体力が戻ってきた。

 

 やはり食事はエネルギーの素というだけあって、心なしか調子がいい。

 今日なんて部屋の中をメイドの助けなしで一人で歩けたのだ。

 かなりの成果だと思う。

 

 これも毎日俺の要望通りに食事を作ってくれたメイドのお陰であるとも言えるな。

 ある時は魔草を中に混ぜさせたり、鎮静剤を混ぜるよう要望したりした。

 普通、齢8歳ごときの小娘があれこれ指示してくれば、疑念に思うはずだろうがこのメイドは素直に応じてくれたのだ。

 正直感謝している。


 だから、せめてもの感謝の印という事で彼女の名前を覚えようと思い、名前を聞いてみると。


「私の名前ですか?まさか、お忘れになってしまったのですか?いえ、なんでもありません。仕方ありませんものね……」


 なんて悲しそうな顔をした。

 

 うーん、なんだ、その……それは多分勘違いだと思う。

 恐らくだがメイドはエゲレアが病の拍子に記憶を無くしたとでも思っているのだろう。

 まあ、うん、それはある意味では合っているというか……間違っているというか……

 エゲレアが死んで、俺が宿ったなんて言える訳もないから、どう説明したものか。しばし悩んだ後に俺は誤魔化す事にした。


「いえ、少しばかり病のせいで記憶が混泥してな、お前の名前が思い出せないんだよ」


「そうですか……なら良いですが……えっと、私の名前はペレーと申します」


「そうか。お前はペレーというんだな」


 なるほど……メイドの名前はペレーと言うんだな。 

 うん、覚えたぞ。


 そんな訳で暫くペレーと話していると、まだ完全に病気が治っていないのか眠くなってきたので欠伸の後に寝る事にした。




 さらに数日が過ぎてきた頃、俺はこの体の主であったエゲレアがどういった人間であったかだいたい把握してきた。

 

 8歳の少女であるエゲレア。

 彼女は天真爛漫で純粋無垢な少女であった。

 うん、本当にそんな感じの人間だったらしい。

 

 ちなみにリソースはペレーだ。


「俺ってどういう人間だった?」


 そんな事を聞いてみると、怪訝な顔をされたが色々と教えてくれた。


 曰く、エゲレアはハイルカイザー伯爵家のご令嬢だったとのこと。

 相当偉い家の生まれだ。

 元庶民の、それも中級市民だった身としては雲の上の存在である。

 

 きっとエゲレアは貴重な婚姻要因として重宝されていたんだろうな。

 なにせお貴族様は娘を大事にするのだ。

 政略婚の道具として。

 だから俺が目を覚ました時、両親はあれだけ泣き喜んでいたのだろう。

 聞くところによるとエゲレアはハイルカイザー家においてただ一人の女子らしいからな。相当貴重な存在だったに違いない。

 まあ、単純に娘が可愛いというのもあるだろうが。

 それでもエゲレアはハイルカイザー家における、ただ一人の女子であるため、相当貴重な存在だったに違いない。

 

 と、そんな雲の上の存在に転生した身としてはなんだか不思議な感覚だ。


 

 ちなみに、その後ペレーは口籠もりながら、


「あの、俺という言葉は、その……相応しくないかと……」


 なんて指摘をしてきた。


 どうやら俺はエゲレアというお嬢様らしく振る舞えていなかったらしい。

 

 ……マジか。

 そこは盲点だった。

 俺の中でお嬢様ってのがどういう物なのかイマイチ分かっていないからどう振る舞えば良いのか分からない。

 なにせ前世はそういう優雅なものとはかけ離れた暗殺者だったのだ。

 血の香りがする戦闘職であったため、そう言うのとは無縁だったからな。

 

 とはいえエゲレアの生きられなかった未来を生きると決めたのだ。それらしく振る舞えていないのは少し反省しなければな。


 そう思った俺は、


「わかった……ゴフンゴフン、分りましたワ」


 そう返事した。


 この後ペレーに全くお嬢様らしくないと言われた時、ちょっと傷ついたのは内緒だ。

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