61話 陽一対へび子③
「が、ああああああ!!」
痛みで叫び声を上げるへび子。
戦闘を開始してから既に数十分経っていることもあって、それに誰かが反応するということはない。
それどころか周りの戦闘音にへび子の声がかき消されそうなくらい。
そのおかげか、それともスキルの完全自動剥ぎ取りのおかげか、そんなへび子に可哀想と思うことなく、むしろダメージがしっかりと入っているという状況に高揚してしまう。
それにダメージを与えるときは、同じ部位でも刺す場所が違うだけでこんなにも効果が違うということを目の当たりにできたのは勉強になる。
皮膚の色味とか、皮の余っているところ、筋肉の盛り上がっているところ、筋、そしてその向き……強いところ弱いところに糸を通すように差し込まれていくその様はまさに芸術で、なんというか料理の修行に来たような気分になってきたな。
「あ、がっ!」
そんな俺をへび子は振り落とそうと暴れるが、俺は指刃でへび子の身体を突き刺して、自分の身体を尻尾に固定。
とんでもない体感で全く落ちる様子がない。
右へ左へ、大きく揺れるたびに腹筋に力が込められるけど……明日間違いなく筋肉痛だわ。
「――そういえばこの間は疲れがない……。お、声が出せた……。って切れたのか、尻尾」
スキルとその効果について考えて、完全に戦闘をスキルに任せていると、とうとう尻尾が切れ、剥ぎ取りの自動化が終了。
完全自動剥ぎ取りの際は口の中を切らないためなのか、まったく言葉を発しさせてくれなかったが、今ではいつもの料理強化と同様に自由に話せる。
ということはここからは調理の時間に切り替わり。
戦闘は終わっていないけど、本当に大丈夫なのか? そもそも素材がドラゴンの尻尾ということは、火を通さないといけないってことだろ?
「お、尻尾の皮を剥いで……。やばい! 攻撃が!」
「あぐっ!」
尻尾が切断され、どたばたと地を這っていたへび子は、目に涙を溜めながら痛みを堪えて苦し紛れの頭突きを披露。
俺はそんなものを気にせず、尻尾の下準備をまだまだ行う。
当たる。痛みが、くる。
それを確信した俺はそれを身構える。しかし……
「あが!?」
「おいおいおいそれはスマート過ぎるだろ」
俺は剣を尻尾に突き刺し、それを持ち上げながらそっとへび子の足元に自分の脚を忍ばせ……簡単にへび子を転倒させた。
そして転んだへび子に俺はまたがると、未だに炎を溜めていたその口を無理矢理開いて、尻尾を突っ込んだ。
焼けていく尻尾からは何故か甘い匂いやスパイシーな香りまで流れ、ここは完全に調理場と化している。
どうやらこの料理強化というスキルはこの状況を鑑みて、へび子の炎で尻尾に火を通そうと考えていたらしい。
これは人間には絶対にできない調理方法。……いい意味でイカれてるよ。
これが料理強化の……おそらくはフェーズ3。
クイーンゴブリンとの戦いの後に念のため切っていたであろう、戦闘併用の設定をいじりなおせば、最後まできっちり戦うこともできたかもしれないな。
ただ今回に関してはこれで良かったし、レベルアップしていないままこの続きをしてしまうと余計な怪我を負うことになっていたかも――
『料理【幼竜の白銀尻尾焼き】が完成しました』
料理完成のアナウンスが流れ、料理スキルは後片付け、とでも言っているかのようにへび子の頭を蹴飛ばし、俺がこれを食べる隙を作ってくれた。
アフターサービスまでしてくれるなんてかなり紳士なスキル……さて、料理の味はシェフの性格と似て上品なのか、それとも荒々しく肉々しいのか。
「へび子、お前の尻尾……いただきます!」