58話 性悪
「――さっきまでは全然レベルが上がらなかったのに……。なるほど、経験値の取得って単純にモンスターを倒せばいいってだけじゃないんだな。特殊なパターンのモンスター、レアな個体ほど育てるのが難しいってのはある意味ゲームと似てる。ありがとう参考になったよ。これで俺自身も更にレベルが上げやすくなった、よっ!」
「ごがぁっ!」
尻餅をついていたへび子の後ろから現れたのは同期の探索者でミークを召喚したあの男。
右手に持つ鞭でへび子を叩くその顔は、いかにも悪役といった様子で、見ていて胸くそが悪い。
「お前……」
「久しぶり……って訳ではないよね。それにしてもつい先日までミノタウロスで四苦八苦してた俺たちがこんなところで顔を会わせるなんて……いや、何があるか分からないもんだな」
「あなた……それを止めなさい!」
俺たちに顔を向けながらも、止まることのない鞭。
ミークはその様子をついに見ていられなくなったのか、槍で召喚師を突き刺そうと動く。
「ミノタウロスの素材で呼んだ亜人にしてはなかなか強くなってるな。でも、もうそんなちんけな亜人はいらない。だってもう少し、もう少しででもっと上位の……天使族だって召喚できるようになるんだからな! だから……これを邪魔するってなら全員ここで死んでもらおうか!波なんてもう俺1人いれば十分! あいつが何を考えているかは知らないが、いずれダンジョンを占有して素材も経験値もモンスターも、全部俺が手に入れて……ダンジョンに国でも作ってみようかな?」
「その提案、反吐が出るわねっ!」
後ろに引いた腕思い切り伸ばして槍で突く。
あまりにも無防備な召喚師はそれを避けることができなかったのだが……。
「――く、あ……」
「無詠唱召喚。呼び出す言葉なんてなくても雑魚ならいくらでも呼び出せる。ふふふ。あはははははは! 無限の肉壁の前じゃお前の攻撃なんて届くはずがないんだよ!」
「あなた……いえ、お前は召喚師なんて大層な名前をもらっていい存在じゃない。あんたは最低の殺戮者よ!」
「……最低? 最高の間違いだろ? ……丁度いい、か。おい、俺に逆らうとどうなるか、見せしめとしてこいつを殺せ。お前のご主人様である俺、沼田剛はやかましい女が大嫌いなんだ。よく覚えておけ」
「が……あっ!」
一瞬でモンスターを召喚し、盾にした召喚師、沼田はそのままへび子に命令。
それに抗うことは不可能なようで、へび子はその尻尾をミークの背中に叩きつけた。
沼田はレベルが上がったことで無詠唱召喚だけでなく、契約済みのモンスターへの命令権まで手に入れてしまったようだ。
「くぁああああっ!」
「ぐぁ……」
「あっはっはっはっはっはっ!! いい声で鳴くなあ! 心地いいよ!」
「ミーク姉さん!」
ダメージを負ったミークのサポートに朝比奈さんが駆け出し、俺もそれに続いて攻撃に出る。
いきなり強い力を手に入れて、性格に問題を起こしている沼田をぶっ飛ばしてやりたいところだが……。
「へび子。お前は俺が相手をする。ミークみたいに甘くはない。だから、お前はそんな悲しい顔なんてせずに、戦いに身を投じてればいい。そうしないと……死ぬのはお前だぞ」
「ぐぁ……」
「ミーク! こっちは俺が受け持つ! そいつを思いっきりしばいてやれ!」
「……流石は私の主人。気が利くじゃない。こいつは私が私だけでやらせて!」
「ミーク姉さん……。了解しました! じゃあ私は陽一さんとへび子ちゃんを!」
「……私が? 私だけで? ……今の俺を昔のままだと思うなよ!」
「「――ぎきゃあああああああああああ!!」」
ミークの言葉に苛立ったのか、沼田は語気を強めると、大量のモンスターを召喚したのだった。
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