56話 そもそも
「痛ぁ……。あいつ加減ってものを知らないのかしら……」
「それは昨日散々思い知らされたと思ってたけどな」
「……。荒井さんが私を、私たちを頼って、信頼して……。うっ、ちょっと涙腺が……」
見事に5階層の入り口、階段の始まりにシュートインされた俺たちは全身を重ねながら、各々が呟く。
ミークの尻は重いし、朝比奈さんの身体はクッションとしては薄すぎて……。
あれ? よくよく考えればあり得ないくらいラッキースケベ状態なのでは?
まぁそんなこと考えるよりも痛みが先行して、有り難みなんか一切感じないけど。
「よいしょっと……。それにしても俺たちかなり強くなったと思ったんだけどな……」
「化物ね、あれ。しかもあそこにいた全員がまだ本気じゃなかった。もっと言えばあの影、300レベルオーバーでまだまだ中途半端で……本体じゃなくて影なのよね」
「やっぱり向こうの世界でも珍しいんですか?」
「かなり、ね。勇者とか魔王とか、そんなのは多分もっと上なんだろうけど、あんなのが街に1匹でも下りてきたら普通即壊滅じゃないかしら?ドラゴンクラスはあるかもしれないわ」
「やっぱりいるんですね魔王とか勇者とかドラゴンとか」
そういえば度々亜人を見掛けたりすることはあるけど、その実異世界の情報をしっかりと知らなかった。
ただ、俺たちの知る定番の世界というか……イメージ通りって感じなんだな。
ダンジョンを産業の1つとして利用することは誰もが考えることだけど、改めて何故、どのように、誰がダンジョンを作った、或いはダンジョンと日本を繋げたのか……攻略が進めばそれも分かったりするのだろうか?
どうやらその辺のことはミークだけじゃなくても他の亜人も知らない感じなんだよな。
「あなたたちと同じ様に探索者というか、冒険者ってのがいたりするわよ……ってこんな悠長にしてる場合じゃないわ!さっさと先に進みましょう!ここは吸い込みの、というかその階層に起きてる事象の影響を受けにくいみたいだけど……何が起こるかは分からないもの」
「そうだな」
この場所は何かしらのプロテクトが掛かっているのか、さっきから多少の吸引力を感じはするが、動くことに制限を掛けられたりはしていない。
モンスターという存在だけじゃなく、この仕組み、システムも……ダンジョンにいると疑問符が常に付きまとう。
だが今はそんなことに頭を悩ませている時間はない。
急いで召喚師のあいつをどうにかしないと――
「あれ? 前から何か……。気を付けて! 5階層のモンスターが上って来るわ!」
「ふぅ……。よし! やったるぞおおおっ!」
5階層のモンスター……元々いたゴブリンがまだ残っていて4階層に上っていくのか、それともリスポーンした個体が状況を見て逃げてきたのか……。
ともあれ、どうせ俺たちを見て攻撃を仕掛けてくるだろうから戦闘は避けられな――
「ききゃあぁぁぁあぁあ!!」
「ぐ、るぁおぅぅあっ!!」
「召喚、モンスター?」
「様子がおかしいわね」
俺たちの正面にその姿を見せたのはゴブリンではなく、明らかに怯えた様子のモンスター。
攻撃なんか微塵もしてくる素振りはない。
「よし、早速――」
「待って! 戦わなくていいならほっとけばいいわ。それにこの先に進めば自ずと死ぬことになるだろうから」
「あの男がモンスターを育成するなんて状況じゃあもうないだろうからな……。というか、様子を見るに上で右往左往してた召喚モンスターってただ逃げてきただけで、別に育成なんかそもそも……ってこともあるのか?」
「そうだとするなら、この先にもいるってことですよね。ゴブリンを追い出す召喚モンスターを追い出すもっと強い探索者――」
「強い探索者ってことはあり得ないから、強い召喚モンスターか、亜人……かもしれないわね」
俺たちの横を通りすぎて行くモンスターを見送ると、俺たちは改めて緊張を高めながら先を進む。
すると……。
「――ぐごおおおおおおおぁあおおおおあぉおおお!!」
5階層に踏み込んだ瞬間、悲痛な叫びにも聞こえるモンスターの雄叫びと……それを発する白い竜が眼前に映ったのだった。
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