45話 進化
「『ホブゴブリンソーサラー』……ホブゴブリン?」
さっきまで戦っていたゴブリンよりも頭身が高くなり、顔つきもより人間に近づいている。
奥の方で指揮命令を下していた強個体が顔を出し始めたって感じじゃあないな。
朝比奈さんの反応を見るに、唐突に現れたような……それにこいつらレベルが他よりも高い。
全員50を超えて……もしかしたら『進化』したのか?
5階層のモンスターにしては手応えがないと思っていたけど、なるほど深い階層になっていくと、元々のレベルが高いこともあってモンスターが進化することもあるのか。
とはいえこの階層のモンスターだけではバフもなしに進化までの経験値を得るのは難しい。
おそらくは探索者からかなりの経験値を奪えたってことだとは思うけど、そもそも死人は出ていないよな? ……となると俺たちとは違う方法で経験値の取得をしている可能性がある。
深い階層のモンスターが殺さずとも戦闘だけで人間から経験値を奪う事ができると仮定して、荒井さんが新人を下の階層に踏み入れさせなかったのは当然危険ということもあるだろうけど、モンスターを進化させないためというのもあるのかもしれない。
「――おい! あれ……中級魔法まで使えるようになるのかよ!」
そんな考察しているとホブゴブリンソーサラーは木の杖を掲げて宙に赤い点を複数映した。
するとそこから火の矢が連射。
木々を大量に燃やし、広い範囲で攻撃。
俺たちの他に戦っていた探索者たちも数人いたのだが、流石にこれを見て後退。
どの人もダメージを負った体で、足を引きづったり腕を押さえ、倒れている探索者までは避難させてやれないような様子だ。
もう話す気力もないのか、すまないと言いたげな顔でただ見つめてくるが、その表情には倒れている奴らも頼む、といった内容が含まれている気がして……。
「ミーク! 手数の多い遠距離攻撃、しかも相手のレベルは高い! あれを倒すまでは安全地帯を作りつつ、倒れている探索者を一ヶ所に集めてくれ! それに回復液、あれを昨日ポーションみたいに瓶詰出来たって言ってたよな? 勿体ないけど、それの配布も頼む!」
「……。そうよね。仕方ないものね。別に直接ってわけじゃないし……。分かったわ! でも私もすぐにそっちに行くから! だから早めに処理してよね!」
「すまん、助かる!」
戦闘員を減らすのは手痛いが、なくなくミークを後退させる。
「一番暴れるやつが引けばパッシブスキルで勝手に俺を狙いたくなるだろ? お前ら」
ミークが引いたことで目に見える範囲のゴブリンウォーリアーとゴブリンナイトは俺を狙う。
そして肝心のホブゴブリンソーサラーはというと……。
「きしゃしゃしゃしゃしゃっ!」
「こいつ! 私を無視して……。しかも、仲間ごとかよ!」
俺と仲間のゴブリン共どもを焼き払おうとしたのか魔法を連発。
進化前の個体、ゴブリンソーサラーもそれに続いて魔法を連射。
近接攻撃主体のゴブリンは役に立たないと判断して仲間を経験値に、ついでに俺も処理できればといったところだろう。
「――くそっ! 避けてばっかりでいやらしい奴らだぜ。ってようやくこっちに攻撃か……。そうだよ、そうやって全員掛かってこい!」
そうして経験値稼ぎを始めて僅か数分、次々とゴブリンソーサラーは進化。
ホブゴブリンソーサラーが増え、その手数も増え、今度は自分たちにとって一番鬱陶し存在、前線で圧力を掛ける朝比奈さんに全攻撃がシフト。
一見大ピンチに見える朝比奈さん。
だが、これだけ事前に焼いてくれた状態のモンスターをこれだけ生み出してくれたのであれば……。
「『料理強化』! 朝比奈さん! 俺が経験値を一気に稼ぐ! だから思い切り突っ込んでくれ!」
「おう! 言われずとも!」
俺は生き残りのゴブリンどもを相手にしながら、焼死体となったゴブリンをながら料理。
口一杯にその肉を含ませながらの戦闘に打って出るのだった。
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