41話 現金な人たち
「――ねぇ、本当に放っておいて大丈夫なのかしら?『へび子』、殺されたりしないかしら?」
「『へび子』? まぁあの言い方からしてしばらくは大丈夫だと思う。そもそもあの男の強さを見ただろ? 今からまたダンジョンに戻ったところで今の俺たちには何もできないさ」
「それはそうかもしれないけど……」
「心配になる気持ちは分かります。でも……これ、2人も早く食べないと冷めちゃいますよ」
なす術なくボロボロな身体になりながらもダンジョンを出た俺たちは素材を売ってポーションを購入即飲み。
それでも疲れた身体ではどうしようもないと帰宅を決定、家までミークを引っ張ってきた。
料理を作ってやれば少しは元気を出してくれると思ったが……なかなか思うようにはいかないか。
「ダンジョンのご飯も美味しいだろうけど、こっちも一杯食べてね!いやぁ、陽一から聞いてみたら朝比奈さんがいたお陰でこれだけの稼ぎが出せたとか……。しかもこの店のことを配慮して取り分を減らしてくれて……。朝比奈さん、何か食べたいものがあったらじゃんじゃん言ってね!」
「おう、遠慮するな!」
「お水おかわり持ってこようか?」
「あ、ありがとうございます」
現金な人たち過ぎて恥ずかしいよ、みんな。
確かに昨日に比べて、俺の取り分である3万円は驚きの額。
それを簡単に稼げる武器を作ってくれた上に、『自分はレベルアップに便乗させてもらっているので取り分は本の少しでいいですよ』なんて言ってくれた朝比奈さんは家族と葵から見れば神様も同然。
葵と一悶着あったらどうしようなんて考えていたけど、金がそんな心配を吹き飛ばしてくれた。
「ほら、ミークも食べた食べた!そんな風にしょぼくれてるのなんてらしくないよ」
「葵……。でも、私胸が一杯で」
「巨乳自慢ですか?私のが小さいからってここぞとばかりに――」
「違うわよ! もう! 人が悩んでるって言うのに――」
「そうそう! そうやって大きな声で話してる方がミークらしいよ。ま、らしいとかなんとか言ってるけど、私もミークとあったのは昨日が初めてなんだけど……。と・に・か・く!食べなきゃ元気は出ないし、強くもなれないの!ほら、朝比奈さんみたくがっつくがっつく!」
「……。そう、ね。こんな悩んでるくらいなら……一杯食べて強くならないと!」
「その、私そんなにがっついてました?」
「はい」
「うん」
赤ら顔で恥ずかしそうにする朝比奈さんを見て笑う2人。
重苦しい空気で帰りはどうしようかと思ってたけど……今回は葵に救われたな。
早くもっともっと稼いで店に貢献して、俺も葵のため、店のために頑張らないと。
せめて今月中には店のきったない看板くらい綺麗に――
『今日はあの朝比奈ホールディングス社長、朝比奈透さんとその成功の秘密についてお酒を飲みながらお話させていただこうと思います。今日はよろしくお願いします』
『お願いします』
『普段ってこういうお店とか来られるんですか?』
『ええ。高級店以外も視察を兼ねて食べに行きますよ。なんならこういったお店の方が好きで利用する回数は多いです』
『意外に庶民派なんですね』
『あはは、そう言われたらそうかもしれないですね。ただこれも娘の影響が大きくてですね、最近は汚うまい店を探すのにもハマってるんです。ここと似たような雰囲気で【中華屋栗原】というところがあるんですが、そこもおすすめですよ』
『あの、他のお店の名前は……』
『あ、すみませんすみません!それでここのお店の――』
何気なくつけていたテレビに映っていた人の何気ない話。
それに気付いた俺たちは口をあんぐりと開けて、硬直する。
「お、お父さん。い、今、私たちの店の名前が……」
「俺もそう聞こえたが……」
「あの、朝比奈さん、もしかしてだけどね、違ったらごめんなさいなんだけど、朝比奈ホールディングスって……」
「もうお父さん来たこともないくせに適当なこと言って……。あれで私のご機嫌をとってるつもりなんですよ。こんなことなら仲間のお店に行くなんて連絡いれなければ――」
「「「ありがとうございます!」」」
父さん母さん葵の声が綺麗に重なると、3人は途端に明日の仕込みを始めだしたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
この作品が面白い、続きが気になると思って頂けましたら
下の☆を★にすることで評価、またブックマーク登録を頂けると励みになります。
どうかよろしくお願い致します。




