34話 うれし泣き
「間違いなく受けとりました。それで、この素材は――」
「4階層の階層主『アイアンアリゲーター』の尻尾と5階層の階層主『ボーパルバニー』の角だ。アイアンアリゲーターの武器はお前の指を変化させるスキルよりも遥かに切れ味がいい。本当はこういった情報を漏らすのはいけないんだが……最近はこれを用いた包丁の販売をある企業が考えているらしいぞ。スキル生成で作られていない試作品でさえ、鉄でさえ簡単にストンだそうだ。だから料理人のお前にはこれでもっと質のいい戦闘兼調理用包丁を作ってみて欲しいと思っている。ボーパルバニーの角はおそらく亜人の……ミーク?だったか?あいつの持つスキルとシナジーがある武器が作れるはずだ。どちらも大したモンスターではないが、どちらも色違いの個体から手に入れた素材希少価値は高い。私のコレクションだったが……特別だぞ」
「ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」
「……売るなよ」
「……。はい」
「その間、怪しすぎるが……。もしかしてお前たちは金に困ってるのか?」
「お前たちというか、朝比奈さん以外ですね。あははは……」
「そうか。なら今後は特訓用に私もちゃんとポーションを用意しておこうか」
「え……。いいんですか?」
「金は腐るほどあるからな。そうだ、金に困ってるなら早くコボルトの死体から素材を剥ぎ取っておいた方がいい。特に毛皮は需要が高いからそこそこの値段で売れるぞ」
「え!?じゃ、じゃあ、急がないと!ちゃんと稼いで帰らないとまた何を言われるか分かったもんじゃ……」
「ほ、本当に貧乏なんだな……。親は何をしてるんだ?」
「中華料理屋です」
「なるほど。それでその職業……。到達階層が深くなるにつれて探索者協会で名前が出され、メディアでも取り上げられる。一般人を助けようと考えるのは立派だが、まずは親の店、自分の家のことを考えて、ダンジョン探索に挑め。自分のことはついつい忘れがちになるものだからな」
「そうですね。心に留めておきます」
「それじゃあ私は3階層までの階段付近に戻る。悪いがポーションは明日からにさせてくれ。それと、今日は剥ぎ取りで時間も食うだろうし特訓は勿論、狩りも止めて……早めに上に戻るのか?」
「はい。そうしようかなって思います」
「そうか。なら気を付けて帰れ」
「……。優しいですね」
「別に私は鬼じゃないからな。それに遅い時間帯になってくると素直に朝出勤してくる新人たちとは対極的に曲者探索者がわんさかやってくる。絡まれると面倒なことになるだろうよ。まぁそのときは私の名前を出しておけば問題ないだろうけどな。それと最後にこれだけ伝えといてくれ。『剣士にとって剣は命、だからお前も剣士なのだから、人に頼らず自分だけの最高の剣を探せ』とな」
荒井さんはそういい残すと、さっきまで戦っていたとは思えないほど足取り軽く階層の奥に消えていった。
そういえばここに来てから探索者の先輩たちとろくに出会ってなかったな……。
曲者でも荒井さんみたいに面倒見がよくて……でももう少し普通の人となら仲良くなりたいかも。
「それはともかくとして……さて、俺もさっさとコボルトの素材剥ぎ取って戻ろうかな――」
「あ、れ……私」
剥ぎ取り作業に向かおうとすると、朝比奈さんが瞼重たそうに開いた。
寝起きで早々に悪いけど、結果だけ報告させてもらうか。
「私、何もできずに負けて……」
「でも認めてくれましたよ。ほらこれが報酬です。それでもって荒井さんから朝比奈さんに伝言。えー、『剣士にとって剣は命、だからお前も剣士なのだから、人に頼らず自分だけの最高の剣を探せ』だそうです」
「え……。……。うぅ……はぁ゛い゛わがりまじだあだいざん……」
認めてもらったのがよっぽど嬉しかったのか、朝比奈さんは顔をくしゃくしゃにしながら既にそこにいない荒井さんに向かって返事をしたのだった。
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