32話 実は美人
「はああぁあぁああぁあぁあっ!!」
「ちょ、ちょっと私の分も残しておいてよ!」
それからしばらく戦闘を続ける朝比奈さんに感化されてミークもコボルト狩りへ。
こうやって見てるだけだっていうのにレベルはまた上がってついに60を突破。
朝比奈さんのレベルだと武器登録の解放までまだ先は長いと思っていたけど、そんなことはない。楽勝だ。
「あれ?へばって動けなくなってるかと思ったけど滅茶苦茶元気じゃんあんたたち」
「荒井さん……。2人は元気ですけど俺は回復スキルがないので、まだしんどい感じですよ」
「ふーん。つまんないな。今のところ特訓できそうなのあんたたちくらいしかいないのに」
「だったらもう少し手加減したらよかったのでは?あ、勿論俺たちの時も」
キャンプ用の折り畳み椅子を一応ミークの分も出してのんびりしていると、その空いた椅子に荒井さんが腰かけてきた。
ずっと戦闘モードだったからこうして落ち着いた荒井さんを見るのは初めて。
黙っていれば気は強そうだけど、ボーイッシュで美人な大人のお姉さんなんだけど……。
「馬鹿。ずっと手加減しまくりだよ。まだダンジョンに来て2日目の探索者なんて赤ん坊も一緒だからな。まぁあんたたち、というかあんたと亜人は小学生低学年位はあるけど」
「それ誉められてるんですかね?」
「当然。それでぇ?なんで昨日の女剣士ちゃんがあんたのところにいるの?しかも……まるで別人みたいに見えるし」
「いろいろ成り行きで……。因みに別人みたいになったのは荒井さんの影響が大きいみたいですけど、朝比奈さんとどこかであったとか、そんな心当たりがあったりするんですか?」
「うーん……。顔を会わせた覚えはないし……私にはそれらしい理由が思い浮かばない。ただ、慕ってもらっているのはありがたいことだと思う。だってそれは私があの人の代わりに、少しでもなれているのかもしれないから」
「あの人?荒井さんくらい強い人でも目標の人っているんですね」
「いる。というか……いた、かな」
荒井さんはどこか遠くを見つめる。
黄昏る様子を見せるその表情に、俺はつい吸い込まれそうになる。
でもそれは好きとか嫌いとか、抱き締めたいとかじゃなくて……なんだろう、どうしようもなく助けてあげたいって気持ちがせり上がってくる。
「……。あっそうだ、言っておくけど、私より強い探索者なんていっぱいいるぞ」
「え、そうなんですか?」
「当然。こんなとこにわざわざ出向くのも、課長なんていう役職押し付けられてるのも、私よりも強くて権力のある存在がいるからで、でもそんな奴らでさえ未だにダンジョンは攻略できていない。最終階層がどこなのかも当然分からない。【波】を完全に止めるには、ダンジョンの攻略はいずれ必要だってのにね。……この話聞くと絶望するだろ?私も最初は――」
「ならお金稼ぎとか名前を売るとか、それらと同時に急いでダンジョンの攻略もしないと……。それにはやっぱりレベルと……。そういえば荒井さんはどんな武器を使ってるんですか?もしスキルで武器を作ってもらっているなら、比較的手に入りやすいおすすめの素材とか教えて欲しいんですけど」
「前向き、なんだな」
「前向き?そんな風に自分を思ったことはないんですけど……。ただ沢山の人が困るならそれを止めないといけないと思っただけで」
「……。似てる。お前もあいつと同じで大層お人好しだ。……。……。さて、少し話しすぎたな。この辺のモンスターは狩り尽くしたようだし、お前はともかくとしてあっちの2人の相手をしてやろうか。女剣士は……モンスターも殺せるようになっているし、戦いぶりによっちゃあ一応剣士として認めてやるか」
「あ、そうなったら報酬を」
「……。意外にちゃっかりしてるんだな、お前。……そうだ、質問に答えるのを忘れていたな。私が持っているのは武器はどれも【基本与ダメージ5桁以上】だ。そこまでの武器はまだ当然お前たちには買えないし、生成も出来ない。だから生成できる範囲のおすすめ素材を報酬としてくれてやろう」
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