お茶会 5
「な、何ですの? わたくしを睨むなんて」
「私からもマーガレットに言いたい事があってここに来たの。とりあえず座っても良いかしら」
「ちょ、ちょっと、お姉様!?」
マーガレットの制止を無視し、空いている末席に座る。
用意されている紅茶や茶菓子は、ランブルグ家で出している物と比べると見劣りするものばかりだ。
ふふ、やっぱり予想通りだわ。
「あらあら、ランブルグ家に比べて随分粗末なものを提供しているのね。マーガレット、お客様にご用意する物はもっと品の良い物にしないと駄目じゃない」
「な、何ですって!?」
「皆様、マーガレットが大変な粗相をしているようで申し訳ございません。手土産としてこちらをご用意いたしましたので、ぜひお持ち帰りください」
セバスさんは私の言葉に合わせて手土産を配る。
そう、実は事前にクロード様の許可を得て、ランブルグ家で使用している茶葉を用意していた。
ランブルグ家で使用している物はどれも超一流なものであり、スターク家のそれとは比べ物にならないことを知っていたため、対抗策として考えたものだった。
「まぁ、このブルーラベルは高級茶ではございませんか」
「大変貴重な茶葉と聞きますよね。私、初めて目にしますわ」
「素敵! 私、この紅茶飲んでみたかったのです!」
マーガレットは顔を真っ赤にして私を睨みつける。
スターク家がどんなに頑張っても、こんな高級茶葉は用意できないでしょうね。
今まで何でも手に入れて来たマーガレットでも、スターク家の財産以上の物は用意して貰えないもの。
……そう、そうやってどんどん冷静さを欠くといいわ。
その方が、こちらとしてもやりやすいもの。
「皆様、宜しければ、お口直しにお茶を入れ直し致します」
セバスさんはスターク家の使用人から茶器を取ると、手慣れた様子でお茶を入れ直し、辺りには紅茶のいい香りが広がる。
ちなみにセバスさんの入れたお茶はとても美味しいのよね。
「まぁ、とてもいい香り」
「ええ、本当。うっとりしてしまいますわ」
「味もすっきりしていて、雑味がありませんわ。先ほどの紅茶とは比べ物にならないですわね」
取り巻き達は手のひらを返したように、私の用意した紅茶に夢中になる。
その様子にマーガレットは声を荒げる。
「お姉様、これはどういうことですの!?」
「どういうことも何も、お集まりいただいた皆様をランブルグ家流におもてなしをしただけですよ」
「ふざけないで!!」
マーガレットはセバスさんの入れた紅茶カップを手に取ると、私に向かって投げつけた。
「!?」
あーー、びっくりした。
幸いカップは私の足元に落ちたため、熱湯を浴びることはなかったけど、クロード様からいただいたドレスに染みが出来てしまった。
そして、マーガレットの行動を見た取り巻き達が一斉に騒ぎ出す。
「まぁ、エステル様! 大丈夫ですか?」
「マーガレット様、いくら身内とはいえ流石にやりすぎですわ」
「エステル様、お怪我はないですか?」
セバスさんも慌てた様子で私の元へ駆け寄ってきた。
「奥様、お怪我はございませんか」
「セバスさん、大丈夫です。ちょっと足元が濡れてしまいましたが無事ですわ」
セバスさんは私が怪我をしないように割れたカップを丁寧に拾い上げて隅に片付けてくれる。
もう、ここまで来れば充分だろう。
これ以上、セバスさんに迷惑は掛けられない。
「皆様、マーガレットが粗相をして申し訳ございません。……さて、マーガレット。貴女に話があってここに来たの」
「煩い! 私のお茶会をめちゃくちゃにしておいて何よ!!」
自分で自分の開いたお茶会を滅茶苦茶にしておいて、最後まで私のせいにするなんて、笑っちゃう。
もう、この場で貴女に味方する者はいないわよ?
「貴女、手紙で散々ランブルグ家のことを貶すような事を書いてくれていたわね。今もそう。これはランブルグ家の妻として許しがたい行為です。貴女の行動にはがっかりだわ」
「はぁ!? 『能無し』のお姉様がわたくしに説教ですって? 何を偉そうに」
「マーガレット、黙りなさい。私はもうスターク家の人間ではなくランブルグ家の人間です。今日は、ランブルグ家に泥を塗るような貴女と縁を切るつもりでここに来ました」
私の発言に、ついにマーガレットが切れたようだ。
私に向かって手を差し出したかと思うと、急にドンッという衝撃が走る。
前からの強い衝撃に耐えきれずに思わず尻持ちを付くと、ポケットに入れていたペンダントが床に落ちた。
あっ! 大変、クロード様へのお土産が……っ!
「っつ!?」
伸ばした手に鋭い衝撃が走る。
驚いて見上げると、鬼のような形相のマーガレットと目が合う。
そう、怒り狂ったマーガレットに手の甲を踏まれたのだ。
「さっきから『能無し』の癖に偉そうな態度を取りやがって。あんたは一生こうやって這いつくばっているのがお似合いなのよ!!」
「奥様!?」
「マーガレット様!? エステル様になんてことを!」
ああ、ヒールが食い込んで……手が!
痛みで思わず目を瞑る。
駄目、誰かっ!!