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お茶会 2

「まぁ、素敵。とっても良くお似合いでございますわ」

「あ、ありがとうございます」


 鏡の前に映るウェディングドレスを纏った姿の私。

 馬子にも衣装とはいうけれど、ドレスの力ってすごいわね。

 一気にどこぞやの姫のような華やかな姿へ様変わりしている。

 今日は髪を結い上げているため、邪魔にならない後方の位置にベールを付けると、清らかで美しい花嫁姿にグレードアップした。

 わぁ凄いな、小物だけでも一気に印象が変わるのね。


「なんてお美しいお姿でしょう! このまま結婚式に出ても問題ないほどですわ」

「そ、そうでしょうか」

「ええ。それはもうどんな美しい御令嬢も霞んでしまうくらいに。試しに執事の御方にも見て貰いましょう」


 そうね、セバスさんなら似合っていなければそれとなく伝えてくれそうだし、的確な意見くれそうだもんね。

 暫くしてマティンヌさんに連れられたセバスさんがやってくると、ピシッとその場で固まった。


「これは……旦那様が奥様のウェディングドレス姿を独り占めしたいとか言い出すかも知れませんね……」

「え? セバスさん何かおっしゃいましたか?」

「いえ、何でも。それより大変良くお似合いでいらっしゃいます」

「そ、そうかしら」


 セバスさん、そしてマティンヌさんを筆頭に店員全員が深く頷いている。

 そ、そうか。全員一致で似合っていると言ってくれるなら、とりあえずは大丈夫そうかも。


「じゃあ、このドレスにします」

「ありがとうございます。こちらは見本用の仮縫い段階のドレスになりますので、奥様用にオートクチュールで仕上げさせていただきます」


 よかった、これで結婚式のやることリストからウェディングドレス選びはなくなるわね。

 自分に与えられたタスクが一個減ってほっとしているとセバスさんが話し掛けてきた。


「奥様、この後まだお時間がございますので市井散策に参りませんか? この辺りでしたら貴族御用達のカフェもございますので、もしお疲れでしたら休憩を取ることも可能でございます」

「そうなんですね。でも、せっかくなので市井散策したいです」

「畏まりました」


 ウェデイングドレスから着替え、軽く髪や化粧を整えて貰う。

 流石高級ブティックだけあって至り尽くせりね。


「マティンヌさん、ありがとうございます」

「ご衣裳は出来上がりましたら献上に上がります。本日ご足労いただきましてありがとうございました」


 ブティックを後にし、市井散策をすることにする。

 うーーん、天気も良いし、散策には持ってこいだわ。

 おや? 露店が出ているわ。何を売っているのかしら?


「セバスさん、露店に立ち寄ってもいいですか?」

「ええ、問題ございませんよ」


 ああ、なんかフリマっぽい雰囲気ね。

 どうやら小物がメインの露店が立ち並んでいるようで、ちょっとしたアクセサリーや小物入れ、雑貨など、目新しい物がたくさんあって見ていて飽きない。

 そんな事を思いつつ見て回っていると、天然石を使用した小物を販売している露店で目を引く色の石を見付けた。


 ペンダントトップとして使用されたものだけど、クロード様の瞳の色にそっくりだわ。


「お嬢さん、お目が高いね。これはアメジストの原石だが、微弱な魔力が内包されているんだ。ほら、他のものより発色がいいだろ?」

「確かに、他のものより澄んでいて透明度も高いわ」

「だろう? 天然の魔力入りの石はお守り代わりとしても古くから使われているし、魔獣除けの効果もあると聞く。お嬢さん自身のお守りでもいいが、このデザインはどちらかというと男性向けになるから、恋人への贈り物にも最適さ」


 恋人への贈り物……か。

 ふっと、クロード様の顔が脳裏を過る。

 クロード様が身に着けたら似合いそうだなぁ。


「おじ様、こちらはおいくらかしら?」

「200リビだが、女性用のセットのこれも購入してくれたら一つ150リビにおまけしよう」


 あ、そうだ! 購入したくても私は現金を持っていないんだった。

 どうしようかな、と思っているとセバスさんが話し掛けてきた。 


「奥様、ご購入されるようでしたら私のほうで話を付けておきましょう。店主、支払先はランブルグ家にしてもらえないだろうか」

「ランブルグ家……って、えええ! まさか領主様の!? そ、そいつは大変失礼いたしました! このペンダントは献上いたしますので持って行ってくだせぇ」

「え!? おじ様、でも」

「領民を魔獣から守って下さる領主様から、お代なんていただけないです!」

 

 店主のおじさんは布袋に入れたペンダントを半ば強引に渡すと「領主様には常日頃感謝しております。よろしくお伝えください」と頭を下げてきた。


 ど、どうしよう。

 なんかランブルグの名前を出しただけで英雄扱いだし、私は一体どうしたらいいのかしら。


「店主、気持ちに感謝する。改めてランブルグ家より使いの者を出そう。さ、奥様、参りましょう」

「え? は、はい! あの、おじ様、ありがとうございます」


 店主のおじ様は深々と頭を下げたまま私達を見送る。

 何が起きたのかよく分からないけど、そのままセバスさんの流れるような誘導でお店を後にする。

 

「あの、セバスさん。お代は大丈夫だったのかしら」

「大丈夫ですよ、後ほどランブルグ家から使いを出しますので。それより、お目当ての物が購入出来ましたか?」

「え、ええ。そうですね」

「それは何よりです。それと、奥様。そろそろ出立のお時間になりますので馬車に戻りましょう」

「あ、もうそんな時間なのですね。分かりました」


 セバスさんの誘導で再び馬車に乗り込む。

 あっという間だったけど、市井散策楽しかったな。

 そんな事を思いながらポケットに入れた小さい袋を取り出す。

 男性用のものだけのつもりだったけど、女性用とセットで渡されたペンダント。

 どちらのペンダントトップにも付いている綺麗な紫色の石。


 ふふ、クロード様とお揃いかぁ。

 クロード様、気に入ってくれるといいなぁ。


 そんなことを思いつつ、馬車はスターク領に向かっていく。


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